みなさん、運動やスポーツをした後は、どのように身体のケアをして疲労をとっていますか?
冷たいシャワーを浴びる、ゆっくりお風呂につかる、ストレッチをする、マッサージを受ける、寝る、などなど。そんな中で、スポーツの現場で特によく使われている、選手自身で行えるセルフケアとして代表的なのが「お風呂」「水風呂」「交代浴」です。
お風呂は、あったかいお湯につかること。水風呂は、冷たい水に入ること。交代浴とは、あったかいお風呂と冷たい水風呂に、短い時間で交互に入ること。
いったいどれが、運動後に行う疲労回復のためのケアとして、一番効果的なのでしょうか?
>>参考にした論文はこちらです。
「Water Immersion Recovery for Athletes: Effect on Exercise Performance and Practical Recommendation」
お風呂/水風呂/交代浴に関する53個の研究がまとめられた、2013年発表の論文です。
疲労回復に一番効果的なのは?
トレーニングやエクササイズは、筋肉や神経を疲労させます。筋肉痛になったりもします。筋肉に痛みがあったり、神経が疲れていると、パフォーマンスが低下したり、怪我をしやすくなってしまいます。
筋肉痛の痛みを最小限に抑えたり、疲労の回復を少しでも早めるために、運動/トレーニング後のケアはとても重要です。疲労回復の方法としてよく使われる「水風呂」「お風呂」「交代浴」の効果を、1つずつみていきましょう。
1)水風呂
多くの研究で、水風呂はパフォーマンスの回復を早めるという結果が出ています。それでは、具体的にどのように水風呂を行うべきなのか。
まずは、水の温度から。水風呂の温度は、10〜15℃が一番効果的だろう、ということです。
次に、水風呂の長さ。どれくらい水風呂につかっていればいいのか。これは、この長さが一番効果的だ!という研究結果がしっかり出ていません。ですが、水風呂がパフォーマンスの回復を早めた、という結果がでた研究の多くは、5〜15分間という長さをつかっています。より長くつかっていた方がいいのか、短い時間でも効果が得られるのか、というのもまだしっかりわかっていないのが現状です。
さらに、水風呂はいつやるべきなのか。トレーニングの後すぐがいいのか?10時間後でもいいのか?これはもちろん、トレーニング後すぐに水風呂に入るのが効果的です。具体的にいえば、トレーニング終了から30分以内がベスト。ですが、ある研究によれば、トレーニングが終わって3時間後に水風呂に入っても、多少は疲労回復に効果がある、という結果が出ています(トレーニング後すぐに入るよりは、効果は薄れる)。
更に、1日に2〜3回練習がある、もしくは試合で1日に何度もパフォーマンスをする、という場合も、1回の練習や試合が終わってからすぐに水風呂に入ると、次の練習でのパフォーマンスの低下を防ぐことができるようです。
ただし1つの研究によると(たった1つですが)、練習やパフォーマンスを始める45分前以内に水風呂に入ってしまうと、体の温度が上がりきらずに練習を始めることになってしまうためパフォーマンスが下がる、という結果が出ています。練習のすぐ前(〜45分前)には、水風呂に入って体の温度を下げてしまうのはやめましょう。(水風呂に入った後、しっかりウォームアップをする時間があれば大丈夫です)
【追記:2015/5/1】水風呂について、もう一つ記事書きました。「筋肉痛にアイシングは意味ある?運動後の水風呂に浸かる効果とは?」もぜひ読んでみてください。
2)お風呂
日本人にとっては、お風呂は一番なじみのある疲労回復の手段かもしれませんね。
しかし研究結果は、トレーニング後にお風呂(38℃以上)に入っても、疲労回復やパフォーマンスの低下を防ぐ効果はあまりなかったと報告しています。更に、アスリートには、トレーニング後の疲労回復としてお風呂につかることは、あまりすすめられない、ともこの論文の中で提案されています。
だからといって、じゃあお風呂に入ることはなんの意味もないのか、といえば、そんなことはもちろんありません。以前、ストレッチについての記事で紹介したように、「ただストレッチをするよりも、筋肉を温めてからストレッチをした方が、筋肉は柔らかくなるし、その柔らかさもより長く持続する」ということがわかっています。
今回の記事はあくまで、「トレーニング後の疲労回復のケア」としてお風呂はあまり向かないというだけで、お風呂にはお風呂のいいところがもちろんあります。何でも使い方次第、ということですね。
以前書いたストレッチについての記事はこちらです。「お風呂に入ってから(筋肉を温めてから)のストレッチはより効果的!」もぜひ読んでみてください。
3)交代浴
交代浴に関する20の研究の中で、9つの研究が、交代浴は疲労回復に効果があるという結果が出ました。この効果が出た研究のほとんどが、同じような交代浴の方法を用いて実験を行っています。
疲労回復に効果があるであろう交代浴の方法は、 以下の2パターン。
- お風呂(38℃以上)に1〜2分、水風呂(15℃)に1〜2分を交互に何度か行う。
- お風呂(38〜42℃)に1〜2分、水風呂(8〜12℃)に1分を交互に何度か行う。
交代浴の長さは、6〜12分間行うのが一番効果的ではないか、と明記されています。
ある研究で、交代浴を6分、12分、18分やって、どのグループがより疲労が回復するかを調べたものがあります。この研究の結果、6分と12分のグループの方が、18分(より長く交代浴をやった)グループよりも、パフォーマンスの回復につながった、と報告しています。長くやればやるほどいいというわけではなさそうです。
では、疲労回復のためのケアとして交代浴をやる場合、いつやればいいのか? これは水風呂と同じで、トレーニング後すぐ(=30分以内)がベストです。参考にした論文の結果から、練習やトレーニングの後すぐに水風呂または交代浴を6〜15分ほどやるのが、疲労回復に効果的のようです。
なお、交代浴をお風呂や水風呂の代わりにシャワーで行う(=冷たい/あったかいシャワーを体の部位にかける)のは効果的ではない、ということです。なぜシャワーじゃだめなのか。これは「静水圧」が理由の1つです。
静水圧とは、お風呂や水風呂やプールなど、水の中に入った時に水圧が体に与える影響のことを言います。浴槽に肩までつかると、体にかかる水圧は約520kgとも言われ、ウエストで3〜5センチも収縮するほどの力が体にかかるそうです(元気FACTORYより)。静水圧の効果によって、心拍出量(心臓が全身に送る血液の量)や筋肉内の血流が増え、トレーニングによって産まれた筋肉内の老廃物が血液により流れるようになるため、疲労回復を促進するのではないか、と言われています。
【指導者向け】練習後すぐに選手たちを疲労回復させたいなら
以上の研究結果を考えると、練習後の疲労回復ケアとして選手たちに勧めたいのは「水風呂」か「交代浴」かなと思います。特に夏の暑い時期は、身体の体温を下げて熱中症を予防するという意味でも、小学校や中学校の子供たちを指導している場合は「家に帰ったら10分くらい水風呂に入りなよ〜」と伝えたり、選手の親御さんたちに水風呂のやり方を伝えましょう。
高校・大学の部活動やスポーツのクラブチームの指導者は、できるのであればチームで1つや複数の簡易浴槽を購入すると良いでしょう。選手によっては学校から家が遠い場合もあり、その間に無駄なエネルギーを消費してしまったより疲労が溜まってしまうことも考えられます。
水がためられるものであれば基本的になんでも良いと思います。子供用のプールや、アウトドア用の浴槽など(下に2つほど例をあげてみました)、チームで1つでも用意しておくことができると、疲労回復のためにはもちろん、熱中症予防や対処にも使うことができます。
製氷機などがあれば屋外でも水を冷やすことができますが、もし氷がないのであれば、室内で行える場所を探すなど工夫して、できるだけ水温を適温にキープできるとより効果が高いです。
ケガするのを防ぐために。次の練習やトレーニングでも高いパフォーマンスを発揮できるように。しっかりケアをして、身体をいたわってあげましょう!
Comments are closed.