トレーナーが知っておくべき膝のスペシャルテストとして、「膝のスペシャルテスト・前十字靭帯(ACL)編【トレーナー向け】」と「膝のスペシャルテスト|後十字靭帯(PCL)編【トレーナー向け】」の記事を書いてきました。今回は「内側側副靱帯編」です。その名の通り、膝の内側にある靭帯で、膝が内股になるような動きを抑える靭帯です。
この内側側副靱帯(Medial Collateral Ligament/MCLとよく言われます)が損傷、または断裂してしまっているかどうかを調べるスペシャルテストとして使われるのが「外反ストレステスト(Valgus Stress Test)」です。
トレーナーの勉強を少しでもしている人はみんな知っている、というくらい有名なテストなのですが、よりラクに、そしてより正確にこのテストを行うためには、「膝の角度」がとても重要なのをご存知でしょうか?
今回は、一見すると簡単そうなこの外反ストレステストを、しっかりと正確に行うためのコツを解説していきます。
>>今回の参考文献はこちら。
「Tibiofemoral Joint Positioning for the Valgus Stress Test」
外反ストレステスト(Valgus Stress Test)をする際の膝関節のポジショニングについて考察された論文です。
膝の内側側副靱帯(MCL)を損傷するメカニズム
まずは簡単に、内側側副靱帯を傷めてしまうメカニズムについて。
内側側副靱帯は、膝の内側が伸ばされた時に損傷(もしくは断裂)します。もう少し具体的に言うと、以下の3つが内側側副靱帯を傷めてしまう典型的なメカニズムです。
- 膝に近い側の腿(もも)に、外側から強い力が加わったとき
- 膝に近い側の下腿(スネ・ふくらはぎ部分)に、外側から強い力が加わったとき
- 足が地面についた状態で膝が過度に内側に入ったとき(=過度に内股のようになったとき)
「外側から強い力が加わる」というのは、アメフトやラグビーでタックルを受けたり、サッカーでスライディングを受けたりするようなこと。「足が地面についた状態で膝が内側に」というのは、スポーツ中の急な切り返し・方向転換をする際などに起こりやすいです。
膝の内側側副靱帯を損傷するとどうなる?
内側側副靱帯を傷めると(MCLに限らず、身体の軟部組織を損傷すると)、4つの「炎症反応」が起きます。この炎症反応をチェックすることで、その部位を怪我してしまったのかを知ることができ、さらに、その怪我の程度(どれくらいその損傷がひどいのか)も推測することができます。
- 疼痛(とうつう):痛みはあるか?
- 発赤(はっせき):赤くなっているか?
- 熱感(ねっかん):熱を持っているか?(熱く感じるか?)
- 腫脹(しゅちょう):腫れはあるか?
これらの炎症反応が起きている場合、身体の何らかの組織が損傷していると考えられます。
怪我が起きたかな?と思ったらいきなりスペシャルテストをするのではなく、まずはその部位を傷めたメカニズムを選手から聞くとともに、炎症反応を確認しましょう。スペシャルテストを行うのはその後です(もし必要だと思ったら)。
内側側副靱帯のスペシャルテスト「外反ストレステスト」
もうすでに何度も出てきていますが、外反ストレステストというのは、膝の内側側副靱帯の損傷・断裂をチェックするスペシャルテストです。まずは、基本的なやり方を紹介します。
- 患者はベッドに脚を伸ばして座ります
- トレーナーは、チェックする膝側に立ちます
- 片手で膝の外側を持ち、逆の手で足首を持ちます(上写真参考)
- まずは膝を伸ばした状態で(=膝関節0°屈曲位)、股関節が回旋しないように注意しながら、膝を内側に押す(=同時に足首を手前に引く)
- 膝の内側が広がる感覚や、選手が強い痛みを訴えたら陽性
- 次に、膝を20〜30°ほど曲げて、同じように股関節が回旋しないように注意しながら、膝を内側に押す
- 同じく、膝の内側が広がる感覚や、選手が強い痛みを訴えたら陽性
- 逆側(=怪我をしていない側)の膝でも同じテストをやってみて、関節のゆるみ・広がりを比較する
膝を内側に押して、膝の内側にある靭帯を伸ばすことで、損傷しているかどうかをチェックするテストです。とてもシンプルなテストですね。
2つのポジションでテストをする
この外反ストレステストのポイントは、膝を伸ばした状態と膝を少し曲げた状態の2つのポジションでテストを行うということ。膝の角度を変えて外反ストレス(=膝が内股になるようなストレス)をかけることで、膝の内側は内側でも、違う組織の損傷をチェックします。この2つのポジションでの関節のゆるみ・広がりや痛みの度合いによって、怪我のレベル(=ひどさ)が「Grade I〜III」に分類されます。
Grade I〜IIIの違いはこちらです。
- Grade I:膝を伸ばした状態でも膝を曲げた状態でも膝関節のゆるみはなく安定。外反ストレスによる痛みのみ
- Grade II:膝を伸ばした状態では関節のゆるみがなく安定しているが、曲げた状態ではゆるみがある。外反ストレスによる痛みも強い
- Grade III:2つのポジションのどちらでも膝のゆるみがあって不安定。外反ストレステストをすると止まる感覚がない(=endpointが感じられない)。痛みはGrade IIと変わらない
研究によってわかっているのは、膝を曲げれば曲げるほど膝の外反というストレスに対して抵抗する組織が減っていき、内側側副靱帯のみをテストできるようになります。膝を伸ばした状態では、膝の外反というストレスに対して多くの組織(膝の内側や後ろ側にある組織)が抵抗するため、膝を伸ばした状態で外反ストレステストをした際に関節のゆるみがある場合は、内側側副靱帯以外の組織も損傷している可能性が高くなります。
膝を曲げて外反ストレスをかけるのは意外に難しい
画像はYouTubeより
上の動画や説明文だけを見ればそんなに難しいテストには感じませんが、実際にやってみると意外に難しかったりします。一番多いミスは、膝関節を曲げた状態で外反ストレスをかけようとすると、「股関節が回旋してしまう」ということ。
外反ストレステストは、その名の通り「膝に外反のストレスをかける」必要があるのですが、膝を曲げた状態で膝に外反のストレスをかけようとすると、股関節が回旋(内旋)しやすいのです(上写真参考)。股関節が回旋してしまうと、膝の内側にしっかりと力が加わらず、正確に内側側副靱帯をテストすることができません。
トレーナーの手が小さいと、膝を曲げた状態で外反ストレスを与える際に股関節が回旋しやすくなってしまいます。また、アメフト選手など、脚が太かったり重かったりすると、腕の筋力がないとうまくテストすることができないことがあります。
膝を曲げる角度は少ない方が外反ストレスをかけやすい
研究で示されているのは、膝を曲げる角度が少ない方が外反ストレスをかけやすい(=股関節が回旋しにくい)、ということ。よって、もしこの外反ストレステストを行う際に、膝関節を20°曲げて行っても30°曲げて行ってもしっかりと内側側副靱帯の損傷・断裂をテストできるのであれば、それは20°でやった方が、より正確に、よりラクに外反ストレステストを行うことができるのです。
多くの教科書では、スペシャルテストの基本的なやり方のところで紹介したように「膝関節20〜30°」で行うと書かれています。私が大学院時代に使っていたスペシャルテストの教科書を確認したら「25°」と書かれていました。本や文献によって、外反ストレステストをやるべき膝の角度が微妙に異なるのです。
膝はできるだけ曲げずにやりたい。でも、何度で行うのがベストなのでしょうか?
【結論】外反ストレステストは膝関節5°と15°で行うべし!
今回の参考文献の結論としては、膝の内側側副靱帯の損傷・断裂を調べる際のスペシャルテスト「外反ストレステスト」は、膝関節5°屈曲と、15°屈曲の2つのポジションで行うことにより、正確に、そしてよりラクにMCLの状態を評価できるだろう、ということでした。
怪我をした直後は膝関節0°にはならないことが多い
怪我をすると、上記しましたが「炎症反応」が起こります。内側側副靱帯はもちろん、筋肉、腱、他の靭帯や軟部組織が損傷すると、腫れます。その「腫れ」が多いと、その腫れによって膝がしっかりと伸びないことがあります(=膝関節0°屈曲位にならない)。また、怪我をした直後は、膝を完全に伸ばすと痛いという場合も多いです。
参考文献では「0°、5°、10°での外反ストレステストは、どの角度でもテストされる組織は同じである」と報告しています。つまり、0°じゃなくても、5°でも、10°でも、この辺りの角度でテストすれば全部一緒だよ、と言っているのです。
これも上記しましたが、同じ組織をテストするのであれば、膝関節はなるべく曲がっていない方がより簡単にラクにテストができます。膝関節0°でできるのならそれでいいですが、腫れなどでしっかり膝が伸びなくても、伸ばせる範囲で膝を伸ばした状態でテストすれば良いよ、という意味で、外反ストレステストの1つ目のポジションは「膝関節5°屈曲位」でやりましょう、ということです。
膝屈曲15°で充分に内側側副靱帯をテストできる
同じように、膝関節15°屈曲でも、20°でも、30°でも、そんなにテストされる組織に違いはなく、内側側副靱帯にしっかりとストレスを与えることができる、と文献では示されています。
よって、テストする組織が同じなら膝は曲がっていない方が股関節の回旋が起きずらくなるため、外反ストレステストの2つ目のポジションは「膝関節15°屈曲位」で行うことが良いでしょう。
まとめ
まとめです。
- 膝関節0°〜10°屈曲位の範囲であれば、どの角度もテストする組織に違いはない(=膝関節内側の組織)ため、怪我をした直後に腫れがあってもしっかりテストできる。
- 膝関節15°〜20°屈曲位でテストをすることで、より内側側副靱帯のみにストレスをかけることができる。
- 膝関節はあまり曲げない方が、股関節の回旋が起きずらく、外反ストレステストしやすい
よりラクに、より効率的に、そしてより正確にスペシャルテストを行うために。膝の角度を気にしつつ、しっかりと膝の内側に力を加えられるように、ぜひ練習してみてください。
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