足首(足関節)の捻挫は、一度治っても再びなってしまうことがとても多い怪我です。よって、普段のトレーニングやウォームアップなどで、足首の捻挫を予防するようなトレーニングを行なったり、怪我をしてしまった後のリハビリをしっかりと行なって、再受傷を防ぐ努力がとても大切になります。
今回は、足首の捻挫を予防するためのトレーニング、もしくは復帰までのリハビリエクササイズとしてぜひやっていただきたいものを、米国アスレティックトレーナー協会によるポジションステイトメントを参考に、私が厳選して10個お伝えします。
>>参考文献はこちらです。
- National Athletic Trainers’ Association Position Statement: Conservative Management and Prevention of Ankle Sprains in Athletes
米国アスレティックトレーナー協会発表の、アスリートにおける足関節捻挫の保存療法・予防に関する論文です。引用文献189のとても信頼できるエビデンスです。 - Balance Training Improves Function and Postural Control in Those with Chronic Ankle Instability
足首に不安定性を持つ人が、バランストレーニングを行うことによって姿勢のコントロール能力が向上することを示した研究論文です。
足首の捻挫予防おすすめトレーニング10選
足首の捻挫を予防、もしくは万全の状態で復帰するために改善すべき足首の機能・能力として、以下の3つの要素を強化することが特に重要となります。
- 足首の可動域向上(特に足関節背屈)
- 足関節周り・股関節伸展筋 & 外転筋の筋力アップ
- バランス(神経筋コントロール)能力の向上
それでは、これら3つの要素を改善・強化するためにオススメのトレーニングを紹介していきます。
1)足首の可動域向上
足首全体の可動域・柔軟性を改善することはもちろん大切ですが、特に注目したいのが「背屈(=足をすねの方に持ち上げる動き)」の可動域です。
背屈の可動域が制限されている場合、足首の捻挫をするリスクが高いと言えます。
足関節背屈の動きを改善する効果的なトレーニングを紹介します。
A)Mulligunモビリゼーション
「Mulligun Mobilization with Movement」と呼ばれるトレーニングです。Mulligunさんという研究者によって発表された、足関節背屈の関節可動域を改善するトレーニングです。
上動画の0:36あたりから始まるのがMulligunモビリゼーションです。
- チューブをどこか動かないところに引っ掛ける(もしくは誰かに持っていてもらう)
- チューブを足関節に引っ掛けて、前に出す
- かかとが地面から浮かないようにしながら、膝をまっすぐ前方に動かして足関節を背屈させる
上の動画では足を台の上に乗せていますが、乗せずに地面で行っても問題ありません。
大切なのは「足首がまっすぐ後ろに引っ張られる位置で行う」ということ(20〜30回くらい)。その後、足を左右に少しだけずらして、距骨(足関節にある骨)が色々な方向に引っ張られるようにすることで、背屈の可動域が改善されていきます。
動画のようなチューブがなかったり、引っ掛ける場所がない場合は、ミニバンドを使って、自分の逆足をサポートとして使って行いましょう。ツイッターで下の動画を見つけて「なるほど!こんなやり方があるのか!」と感動しました。
足首の硬い私は、最近これを実際にやっていて、効果も実感しています。
足関節エクササイズ🧦
・足首の背屈可動域制限 ・捻挫の既往 ・足首がつまる、ハマりが悪い
という選手にオススメのセルフケア
ウォーミングアップ前やテーピングを巻く前のエクササイズの一つとして。#足関節エクササイズ
※痛み、その他の問題は専門家へ pic.twitter.com/wwv8TsejEx
— ハマトレ🏋🏾♀️ (@hamada_yuta) 2018年10月5日
ミニバンドは1つ持っておくと、自宅で効果的な筋トレを簡単に行うことができます。詳しくは「ミニバンドトレーニングおすすめ10選【臀筋・体幹・インナー強化】」もぜひお読みください。
2)足首&股関節周りの筋力アップ
足首の捻挫の予防、もしくは怪我からの復帰を目指したリハビリで行うべき筋力トレーニングは、以下の動きとなります。
- 足関節の内反・外反・底屈
- 股関節の伸展・外転
足首の捻挫の予防・リハビリだから、ただただ足首周りだけを鍛えておけば良いかといえば、答えはノーです。多くの研究によって、股関節伸展・外転の機能低下が、足首の捻挫を引き起こすリスクを高めることがわかっています。
それぞれの動きを効果的に鍛えるエクササイズを紹介します。
B)4-ways足首トレーニング
足首の4方向の動き(底屈・背屈・内反・外反)を鍛えるトレーニングです。動画ではミニバンドが使われていますが、チューブやセラバンドなどでも行うことができます。
また、動画はかなり適当にやっていますが(笑)、しっかりと「関節が動く最大限の可動域を動かして行う」ことで、足首の柔軟性・可動域改善になります(リハビリ初期では痛みのない範囲で)。
C)ミニバンド・グルーツブリッジ
股関節の伸展を行う「大臀筋」をメインで鍛えるトレーニングです。ミニバンドなしでももちろん良いエクササイズですが、私個人的には、ミニバンドを使った方が誰でもしっかりと大臀筋を活性化させることができると感じるため、オススメです。
- ミニバンドを膝上につけて仰向けになる
- 足は肩幅で、膝をしっかりと曲げてかかとをお尻の近くに置く
- 膝をしっかりと外側に開きながら、お尻を上げ下げする
- お尻を持ち上げた際、腰を反らさないように注意
D)クロスオーバー・ステップアップ
「お尻の筋肉を鍛えるトレーニング5選【科学的根拠・エビデンスつき】」の記事で紹介したトレーニングの中で、一番大臀筋の活動が活発になったのがこの「クロスオーバー・ステップアップ」です。
動画ではダンベルを両手に持っていますが、最初はダンベルなしで行いましょう。また、ステップアップするボックスの高さが高ければ高いほど強度は高くなります。最初は低い段差から始めて、徐々に高くしていきましょう。
- ボックスの横に立ち、ボックスから遠い方にある脚を身体の前でクロスさせてボックスの上に足をのせる
- 背中や腰が曲がらないように姿勢をキープしながら、ボックスの上に上がる
- 動画のように左右交互に行うか、もしくは片側ずつ行う
E)サイドライイング・ヒップアブダクション
股関節の外転筋である「中臀筋」をメインで鍛えるトレーニングです。ちまたで様々なやり方が紹介されているエクササイズですが、私が紹介するやり方では股関節伸展位で行うため、大臀筋も活性化されます。
足を地面につけず荷重をしないで行うトレーニングのため、リハビリとしても早い段階から行うことができます。
- 壁から10cmほど離れた場所に横向きになり、天井側の足のかかとを壁につける(=股関節伸展位)
- つま先を若干天井側に向ける(上の動画では逆につま先が下側を向いています)
- かかとで壁を押しながら、スライドさせるようにして上げ下げする(お尻の後ろ側・横に効かせる)
- 腰を反らさないように注意して行う
F)ミニバンド・ラテラルウォーク
こちらも「中臀筋」をメインで鍛えるトレーニング。立って行うため、上の「サイドライイング・ヒップアブダクション」よりは強度が上がります。
ミニバンド(もしくはチューブ)があればどこでも行えるため、運動前のウォームアップとしてもオススメのトレーニングです。
- ミニバンド(もしくはチューブを輪っかにしたもの)を膝上もしくは足首につける(足首の方が強度が高いです)
- 両手は腰に当てるか、動画のように腕を振りながら、横に歩く
- 進行方向とは逆側の脚で地面をしっかり押して進むことを意識するとより効果的
3)バランストレーニング
米国アスレティックトレーナー協会によるポジションステイトメントには「Strength of Recommendation Taxonomy(SORT)」と呼ばれる、エビデンスレベルを表す指標が書かれているのですが、バランストレーニングはエビデンスレベルA(=エビデンスレベル高。必ずするべきこと)と明記されています。足首の捻挫の予防において、バランストレーニングは必須の要素です。
トレーナーとして、下肢(股関節・膝・足首・足など)の怪我の予防やリハビリのプログラムを作る際は、必ずバランス能力を鍛えるようなトレーニングを組み込むようにしましょう。
G)片足バランス(目を開けて → 目を閉じて)
まずは一番シンプルなバランストレーニングから。目を開けた状態で10秒ほどバランスがとれるようになったら、次は目を閉じて行います。これができることが前提で、ここから少しずつ強度を上げていきます。
これくらい簡単だよ!と思うかもしれませんが、足首を捻挫して、まだ関節に腫れが残っていると、関節の状態やポジションを感知する受容器がうまく働かずに、結構グラグラしてしまうことがあります。10秒間、身体が動かないように静止できることが目標です。
- 両手はリラックス、もしくは腰に当てたり、肩の高さで横に広げたりなど、好きな位置で行う(場所を決めたら、片足でバランスを取っている最中は、そこから動かさないようにする)
- ゆっくり体重を片足に移動し、逆足を地面から持ち上げる(少しだけ浮かす程度でも、しっかり股関節や膝を曲げて足を持ち上げても、好きな位置で良い。ただし、一度場所を決めたら、そこからなるべく動かないようにする)
H)ボスボール・片足バランス
以前書いた「前十字靭帯(ACL)損傷のリハビリ・予防エクササイズ20選」でも紹介した、下肢の怪我を予防するオススメのエクササイズです。膝の怪我を予防したり復帰を目指したリハビリを行う上でも、バランストレーニングは必須です。
まずは、ボスボール(BOSUバランストレーナー)の上で、片足でバランスがしっかりととれるようになりましょう。できるようになったら、トレーナーやコーチが、ボスボールを選手が見えないところから軽く揺らします。予期しない動きにも対応できるバランス能力を養うことで、より実践的になりますね。
BOSUバランストレーナーを使ったトレーニングは「ボスボール(BOSUバランストレーナー)おすすめトレーニング8選」でも紹介しています。どれもオススメなのでぜひチャレンジしてみてください。
I)片足バランス+ボールスローイング
片足でバランスをとりながら、上半身で何かしらの動作を行います。上半身の動きや何か負荷がかかっても、片足でしっかりとバランスがとれるようにします(動画で使っているボールはメディシンボールと呼ばれる重いトレーニング用のボールです)。
テニスや野球などの選手であれば、テニスボールや野球ボールを使って行うと、楽しみながら効果的なトレーニングができます。動画では壁を使ってますが、選手同士ペアになって軽いキャッチボールを片脚で行うのも良いですね。
こちらはサッカーのスローインのような動きを片足で行うトレーニングです。サッカーボールやバスケットボール、上で紹介したメディシンボールを使って行うのも良いでしょう。
J)片足バウンド/ホップ to スタビライゼーション
足首を捻挫してしまう状況でよくあるのが「ジャンプから着地したとき」です。多くのスポーツで、ジャンプをして片足で地面に着地するという状況が生まれます。よって予防トレーニングでは必ず「ジャンプ+着地」のトレーニングを行いましょう。
片足でのジャンプ、片足での着地のトレーニングを行う際は、まずは「バウンド(ジャンプをする足と着地をする足を入れ替える)」から行います。
バウンドがしっかりと安定してできるようになったら「ホップ(ジャンプをする足と着地をする足が同じ)」を行います。バウンドよりもホップの方が強度が高くなります。
- 片足でバランスをとり、前方に跳んで着地し、バランスをとる
- その場所から後方にジャンプして着地し、バランスをとる
前後を行ったら、左右も行いましょう。下の動画は「バウンド」です。できるようになったら、ぜひ左右の片足でのホップも行ってみましょう。
片足でジャンプをしたり、ジャンプからの片足での着地という動作は、かなり強度が高いトレーニングとなります。予防としてのトレーニングではしっかりとした強度で行い、リハビリとして行う際は、筋力が十分に戻ってから行うとともに、十分に集中して行いましょう。
まとめ
足首の捻挫を予防するために、もしくは捻挫をしてしまってから運動・スポーツ復帰までにやると良いおすすめトレーニングを紹介しました。予防のために、ぜひこれらのエクササイズをウォームアップや普段のトレーニングに加えていただけたらと思います。
どんな怪我でもそうですが、他の選手が、怪我の名前は同じ「足関節捻挫」になったとしても、人によって損傷部位や程度は違います。よって、同じ捻挫は2つとありません。足首の捻挫をしたすべての人に同じリハビリトレーニングをやったとしても、うまくいく人もいれば、なかなか痛みが引かなかったり、機能改善しない人もいます。
「1人1人違う」ということを頭においた上で、自分や選手たちに合ったトレーニングを行なっていただけたらと思います。
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