「英語の論文」と聞くと、「読むのが難しそう」と感じる方は多いと思います。ですが、実際そんなことはまったくありません。むしろ、慣れるとすごく読みやすい教材だと私は思っています。

理由は、「どの論文も構成がほぼ一緒」であるということ。これはどういうことかと言うと、「どこに何が書かれているのかが明確」ということです。

英語の論文は無料で質の高いものをいくらでも手に入れることができます(無料英語論文の手に入れ方は「Pubmedの使い方|エビデンスレベルの高い英語論文を無料で手に入れる方法」の記事をご覧ください)。

自分の興味がある分野で、知識の習得にもなりながら、しかも英語を読む能力も上がる。一石二鳥、三鳥ですね。

今回は、私の専門分野であるアスレティックトレーニング・スポーツ医科学の分野の英語論文を読むコツをお伝えします。


>>今回の参考資料はこちらです。

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英語論文の探し方から、読み方、さらには論文によく出てくる単語の解説がされている本。「論文を早く正確に読みたい」という人にはオススメの本です。

英語論文を構成する8つの要素

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他の分野の論文は読んだことがないのであまり詳しくありませんが、私の専門である「アスレティックトレーニング」や「スポーツ医科学」の分野に関する論文の構成はほぼ一緒で、だいたい8つの要素に分かれています。

なぜこれらの要素について知っておくべきかというと、それぞれの要素で書かれている内容がどの論文でも一緒だからです。

ここの要素にはこんなことが書かれている、ということを知っておくと、自分がその研究・論文から知りたい情報を効率よく手に入れることができます。

今回は、私がよく読む学術雑誌の1つである「Journal of Athletic Training(以下JAT)」より、「Local Ice-Bag Application and Triceps Surae Muscle Temperature During Treadmill Walking」の論文を使って解説していきます。

この論文は、過去に書いた記事「【アイシングをより効果的に①】歩きながらのアイシングは効果なし」の参考文献です。興味があればぜひこちらの記事もお読みください。

1)タイトル・著者名

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論文を見ると、一番最初にデカデカと書かれているのが「タイトル」ですね。その論文のテーマが簡潔に書かれています。また、論文における重要なキーワードがタイトルに含まれています。

そして、タイトルの下に書かれているのが「著者名」です。ある程度論文をたくさん読んでいくと、「この人は◯◯の分野の論文をたくさん書いているな」とか、「この人の論文はいつもタメになるよな〜」と気づきます。

私も何人か好きな著者・研究者の方がいます。その分野のことを調べたいときは、著者名で検索をかけて論文を探したりすることもあります。

2)Abstract【要約】

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学術雑誌によっては「Abstract」と書いてありますが、今回使っているJATの論文にはAbstractとは書いておらず、上下黒線で挟まれている部分となります。

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ちなみにこちらは、以前書いた記事「お尻の筋肉を鍛えるトレーニング5選」の参考文献である「An examination of the gluteal muscle activity associated with dynamic hip abduction and hip external rotation exercise: A systematic review」のAbstractです。

「Abstract=要約」には、この論文の内容がギュッと凝縮されて、まとめられています。つまり、ここを読めばこの論文に何が書かれているのかがおおよそわかります

3)Introduction【背景・先行研究の概要】

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Abstractが終わると、Introductionが始まります。これも、学術論文によってはIntroductionと書かれています。JATの論文にはIntroductionも書かれていません。書かれていなくても、ほとんどの論文はIntroductionから始まります。

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こちらは、先ほどあげたお尻トレーニング記事の参考文献のIntroductionです。ちゃんと小見出しとして書かれていますね。

この「Introduction」には、この論文を読む上で最低限知っておきたい事前情報・基礎知識のようなものが書かれています。「今までの研究ではこのようなことが証明されています」といったものがまず紹介され、「でもこれについての研究はされていません」、もしくは「はっきりとはわかっていません」といった事例が紹介され、「そういう理由で私たちはこの研究を行いました」という流れで進んでいきます。

4)Methods【方法・手段】

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Introductionの次にくるのが「Methods=方法・手段」です。この研究はどのようにして行われたのか、が説明されます。

被験者はどんな人たちだったか(男性は何人で、女性は何人だったのか?年齢は何才くらいの人たちだったのか?)、どんな道具・装置が使われたのか、どんな日程で、どんな順番で実験は行われたのか、などが詳細に解説されています。

5)Results【結果】

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「Results=結果」はまさに言葉の通りで、実験を行なった結果どうなったのか、数値・図・表などの用いて客観的なデータが示されます。

6)Discussion【考察】

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実験をして、結果が出た上で、著者たちの考察が「Discussion」にまとめられています。論文を読む上で一番面白い部分だと思います。

7)Conclusion【結論】

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この研究のまとめが最後に示されます。また、今後どのような研究をしていくべきか、といった提案が含まれる場合もあります。

8)Reference【参考文献】

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この研究・論文中で使われた文献や資料が記載されています

本文中に示されている番号は、ここのReferencesにリストになっていて、この研究を行う上で、また論文を書く上で著者たちが参考にした文献・資料を確認することができます。

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中には無料では読むことができないものもありますが、運が良ければ無料で手に入ります。Referencesにリストされた論文をさらに読んでいくと、どんどんその分野の知識が深まっていきます。

【英語論文の読み方のコツ】最初から順番に読まない!全部読む必要もない!

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英語論文の構成がわかったところで、ここからいよいよ論文の読み方です。まず最初に知って欲しいのは「全部読む必要はない」ということです。

最初から最後までいちいち読んでいたら、1つの論文を読むだけで相当な時間がかかります。研究者などではない限り、自分が知りたい情報だけを効率よく入手していけば良いのです。

英語論文を読む上で、それぞれの要素をどのような順番で読んでいったら良いか、を解説していきます。

1)まずはAbstractに目を通す

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最初に読むべきは「Abstract(要約)」です。学術雑誌によって形式は多少異なりますが、JATのAbstract(上画像)で解説すると、以下の4つの要素は目を通しておくと良いでしょう。

a) Objective【目的】

この研究は何を目的にして行われたのか? が書かれています。ちなみにこの論文はこんな感じ。

Objective: To determine the effect of submaximal exercise on tissue temperatures during a common ice-bag application

つまりこの研究は、「アイシングを行いながら高強度エクササイズを行なったとき、組織の温度はどうなるか?」ということを目的に行われたもの、ということがわかります。

b)Patients【被験者】

どんな人たちが実験の被験者だったのか、も大切な情報です。例えば、自分がトレーナーとして活動しているのが大学生のチームだったとして、今から読もうとしている論文の研究の対象が高齢者だった場合、もしかしたら大学生にはその研究の結果が当てはまらないという可能性があります。

だからといって読む必要がない、というわけではもちろんありませんが、情報の1つとして確認し、その上でこの論文をさらに読み進めるかどうかの判断基準にしましょう。

c)Results【結果】

本文に詳細なResults(結果)が載っていますが、Abstractには1〜2文で簡潔に結果が書かれています。ここで結果を確認しておくと、論文がとても読みやすくなります。私は、本当に気になるとき以外は、本文のResultsは読みません。

d)Conclusion【結論】

この研究の結論が1〜2文で示されています。結論も先に知っておくと、詳細な要素を読む時に理解がしやすいです。

このように、Abstractの4つの要素を読むだけで、この論文のおおよその概要がわかります。ここを読んだ上で、本文をさらに読み進めるかどうかを決めましょう。

よく、タイトルだけを見ると「おぉ!まさに自分が知りたいことじゃん!」と思っても、いざAbstractを読んで概要を知ってみると、微妙に自分の知りたいこととは違うな、となることがあります。

Abstractって、本文よりも小さい字で書かれていることが多いので、Abstractは重要ではないと感じ、Introductionから読み始める人がいます。ですが、イントロからゴリゴリと読み始めて、途中で「あれ?これ俺が知りたいことじゃないな。。。」となってしまうと、無駄ではないですが、もっと効率的に読めたかな、となります。よって、まずAbstractに目を通して、これはもっと読み進めたい論文なのかどうかをまずチェックすることが大切です。

2)Conclusionを確認する

AbstractでConclusion(結論)は簡潔に書かれていますが、論文の最後の方に示されるConclusionでは、広い視点からこの研究をみたまとめが書かれています。

これから本文を読み進めていく上で、この研究の結論をちゃんと知っておくと、他の要素が読みやすくなります。

多くの論文では、このConclusionは最後の方にまとめとして載っているので、一番最初のAbstractを読んだら、一度後ろのページにとんで、Conclusionを読みましょう。

3)この研究分野についての基礎知識を得たいならIntroductionを読む

例えば、今回使用している論文は「アイシング(クライオセラピー)」がメインテーマなので、このIntroductionでは、アイシングについての過去の研究についてや、現在の問題点などが示されています。

もしあまり知らない分野の論文を読む場合は、Introductionを読んで基礎知識を入れておくと、その研究のことがより理解できるようになります。

このIntroductionを読むだけでも勉強になるので、学生トレーナーの方などはぜひ読むと良いと思います。

4)Discussionを読んで理解を深め、考える

実験・研究の結果を得た上で、著者たちはどのように考えるのか(=考察)、がDiscussionには書かれています。あくまでこれは著者たちの意見なので、彼らが言っている事が100%正しいと信じてはいけませんが、その意見を聞いて「確かにそうだな」と思うもよし。「いや、こういう時はどうなんだ?」と、さらに違う論文を検索して理解を深めるもよし。その研究について考えを深めていく部分ですね。

5)Resultsは図表のみ。基本的には読まない

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これは私個人的な考えですが、Resultsは、AbstractやConclusionを読んですでにある程度わかっているので、基本的には読みません。図や表などがあれば、それだけ見ておきましょう。

例えば上左のグラフを見てみると、横軸は「Time=時間」で、縦軸は「Temperature=温度」を表していることがわかります。そして2つのグラフがあり、1つは「Resting=休んでいる」時のグラフで、もう1つは「Walking=歩いている」時のグラフ。

この論文は「アイシング」がテーマなので、アイシングをしながら休んでいる場合と歩いている場合のグラフなんだな、という事がわかります。そして、本文を読まなくても、このグラフを見れば、休んでいるグループの方が温度がより下がっている、という事がわかりますね。

また、アイシングをしながら歩いているグループは、アイシングをしているにも関わらず、時間が経っても全然温度が下がっていないこともわかります。

図表を見れば、本文を読まずに英単語を拾うだけでも結果がわかりますね。

【おまけ】英語は重要な事が最初に書かれている

最後に、論文を読む上で知っておくと良いことを1つ紹介します。

私が月1回講師を務める「GAP英語勉強会」でよく話す事なのですが、日本語の文というのは、最初に主語がきて、説明文がずっと続いて、最後に動詞がきます。「私は昨日朝6時に起きた」という文章は、最後まで聞かないと、「起きた」のか「起きれなかった」のかがわかりません。

対して英語の文というのは、まず主語がきて、次に動詞がきて、後ろに説明文が続きます。「I woke up at 6am yesterday.」という文章をみると、「私は起きた」事がまずわかり、続いて「何時に」や「いつ」といった説明が補足されます。

つまり、英語という言語は、重要なことを先に言って、後から補足していく言語なのですが、それは論文でも現れます。

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こちらはDiscussionパートですが、パラグラフが3つあります。この中で、著者がもっとも伝えたい重要なことが書かれているのは「パラグラフ①」です。「英語という言語=重要なことを最初に言う」ということを知っておくと、論文などの英文を読む際も、英会話でも、リスニングでも、役に立ちます。

まとめ

英語論文の構成、各要素、読む順番について解説しました。ニュース記事や本とは違い、論文は書かれている要素別に始めから分かれているので、どこに何が書かれているかわかった上で読み進める事ができます。どこに何が書かれているかわからない状態から読むよりは、よっぽど読みやすいと思いませんか?

論文なので正確な文法で書かれていますし、1つ1つの文章もキレイな構造になっています。英文読解の能力をアップさせたい人にとっては、とても良い教材だと私は思っています。

ぜひ、あなたの興味があるテーマの英語論文を読んでみてください。

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