長年トレーナーをやっていたり、子供・学生・社会人などの運動指導をしていても、起きてしまう怪我や病気はほとんどの場合は数日〜数ヶ月で治るもので、命に危険が及ぶようなものに出会うことは滅多にありません。

ですが、そのような事態が起きる可能性はいつ、どんな時でもあります。たとえそれがプロスポーツレベルであっても、部活動レベルであっても、地域のスポーツクラブであっても、学校での授業中でも、です。

よって、トレーナーはもちろん、運動部を指導する(運動部でなくても)顧問の先生やマネージャー、スポーツクラブの監督、コーチ、トレーニングジムのスタッフ、更には学校の教師などは、いつ、そのような重度な、命にも関わるような怪我、もしくは災害が起きた時でも落ち着いて対処できるように、あらかじめ準備し、シュミレーションをしておく必要があります。

数々ある準備の1つとして、「緊急時対応計画書(=Emergency Action Plan)」を作成しておく、というものが挙げられます。

これは、もし緊急事態が起きた時に、それぞれのスタッフはどのように動くのか、行動するのか、をあらかじめ考え、文書に記しておくものです。あらかじめ行動を決めておき、練習(=リハーサル)しておくことで、いざ本当にそのような事態になった時に落ち着いて迅速に行動ができます。

今回は、この「緊急時対応計画書(=EAP)」の作り方を、1からわかりやすくお伝えしていきます。


>>参考文献は以下の通りです。

nata-emergency-planningNational Athletic Trainers’ Association Position Statement: Emergency Planning in Athletics
NATAより発行されているポジションステイトメントです。2002年発表と少し古いですが、参考になることばかりです。

ksi-emergency-planningEmergency Action Plan: Korey Stringer Institute
Korey Stringer Instituteによる緊急時対応計画についてのまとめです。KSIのウェブサイトにも、参考になる情報が満載です。

 

追記:3/1/2018コーチングクリニック 2018年 04月号 特集:必携 応急処置対応マニュアルにて、緊急時対応計画についての私の記事が掲載されましたぜひこちらもご覧いただけたらと思います。

緊急時対応計画書とは?あらかじめできることは全部やっておく

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緊急事態というのは、緊急でやってくるからそう呼びます。

いくら頭ではやるべきことをわかっていても、いざその緊急事態が発生するとパニックになって、わかっていたはずの行動を取れなくなったり、思わぬ状況になってしまったりします。

よって、あらかじめ起きうる緊急事態を想定し、各個人がどのように行動することでその緊急事態を最小限におさめることができるのか(=迅速な対応・連絡・適切な対処や応急処置など)を、事前にしっかり考えておくべきなのです。

さらにそれをただ頭の中で考えたり、口頭で話すのではなく、実際に紙にして文字におこすことで、スタッフ達の理解がより深まり、共有できて、イメージがしやすくなります。これを「緊急時対応計画書」と呼びます。

またこの緊急時対応計画書は、「すべての学校(=小・中学校、高校、大学など)」で作成されておくべきである、今回の参考文献には示されています。

緊急時対応計画書はいつでも作成が可能です。あらかじめできることをせずに、いざ緊急事態に陥ってどうしたらいいのかわからなくなって、大切な選手・生徒・子供などを失ってしまわないように、しっかりとした計画を立てておきましょう。

計画書ではないですが、学校や会社で行われる「避難訓練」がこれに当たります。地震や火災などの緊急事態が起きたことを想定し、全員がどのように行動するべきかを考え、実際に緊急行動のリハーサルをしていますね。

緊急時って、例えばどんなこと?

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ここで想定するものは「命に危険が及ぶ出来事が起きた時」です。

緊急事態の例としては、運動・スポーツ中であれば「アメフトの試合中に頭を強く打って意識を失ってしまったら?」など。普段の生活では「授業中に大きな地震が起きたら?」といったものになると思います。

これら緊急事態のシチュエーションを、スタッフ全員(部活動の顧問、監督、コーチ、トレーナー、マネージャー、担任教師、学生課などの学校側、などなど)が想定し、誰が先頭に立って指示を出すのか、誰がどこに連絡をとって、誰が何を準備し、誰がどう行動するか、というのを1つ1つ明確にして、計画書に記していくことになります。

上に挙げたもの以外に「突然死」の危険があるものは、大量の出血や内臓に損傷が及んでいる可能性のある怪我、心停止、ショック状態、熱射病を含めた熱中症関連、頭部への外傷や頚椎損傷、喘息、アナフィラキシーショック、落雷などが想定されます。

さらに、特に日本では最近とても多い「地震」を含めた災害ももちろん緊急事態です。日本のどこでも、いつ大地震が起きてもおかしくない状況ですからね。

これらの緊急事態が起きた時はどう行動するのか?を事前に考えて、緊急時対応計画書を作っていきます。「その時になってみないとわからない」は無責任すぎるのです。

緊急時対応計画書の流れ・作り方

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それでは、緊急時対応計画書の流れを、1つ1つ解説していきます。

ですが、まず前提として、緊急時対応計画書を作るときは、誰か一人のみの力で作られるべきではありません。

最終的にまとめて1枚の「計画書」にするのは一人かもしれませんが、具体的な内容については、医療資格を持った方(医師や救急救命士など)の人たちと一緒に、部活動中の緊急対応を想定する場合はトレーナーや監督・コーチなど。授業中の緊急対応を想定する場合は教師、学生課のスタッフ、養護教諭など、緊急事態が起きた時に緊急時対応を実行するであろうスタッフのみんなで話し合って作成されるべきものです。

それでは、緊急時対応計画書に明記されるべきものを、順番に挙げていきます。

1)119番をする or 119番をするために◯◯課に連絡

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ほとんどの緊急事態の場合は、救急車(もしくは消防車も)を呼ぶ必要が出てきます。命に危険が及ぶ可能性がある場合は、一刻も早く医療従事者を呼ぶ必要があります。よって、まずは「すぐに119番をする」ということを明記します。

もし部活動中の緊急事態の場合、学校によっては、個人が119番するよりも学校から連絡を入れた方がより迅速でスムーズに話が進む(=救急車をより早く呼ぶことができる)ことがあります。

よって、救急車や消防車を呼びたいときはどうするのが一番迅速で効率が良いのかを、学校側に確認しておきましょう。

もし個人で直接119番するよりも学生課など学校側から電話した方が早いという場合は、その電話番号を聞いて、緊急時対応計画書に明記しておきます。

◯◯課の他にも、緊急事態の時に使う可能性のある連絡先はすべて明記しておきましょう(近くの救急病院数カ所、顧問や指導者、担任教師・学年主任・校長など、保健室の先生、トレーナーなど)。

2)救急車・消防車に来てもらう場所の住所や名称を明記

もし個人で119番をしなければならない状況の時は、救急車に来てもらう場所の住所や名称を伝える必要があります。

緊急事態でパニックになっていると、住所を忘れてしまうことはよくあります。よって、誰が119番をしたとしても必ず同じ場所に救急車が来てもらえるよう、言うべき住所や名称をスタッフ間で統一しておくと良いですね。

そうすることで、何が起きたとしても、スタッフは救急車はあそこに来るとわかっているため、対処や準備がしやすくなります。

来てもらう場所に目印になるような建物やランドマークなどが近くにあればそれも明記し、万が一救急隊に道や具体的な行き方を聞かれても答えられるようにします(例. 「◯◯の信号を右折して、2つ目の交差点を左」「◯◯薬局を左折したらすぐの門」「◯◯スーパーの向かえ」など)。

3)住所以外に救急隊に伝えるべき情報を明記

基本的には救急隊に聞かれたことに素直に落ち着いて答えれば良いのですが、緊急事態が起きるとパニックになって、それすらもすることができなくなってしまうことは多いにあります。

住所以外に伝えるべき情報は以下の通りです。あらかじめ知っておくことで、落ち着いて答えることができるようになります。緊急時対応計画書に明記しておきましょう。

  • 電話をしている人の「名前」と「電話番号」
  • 緊急事態に巻き込まれているのは何人いるのか
  • すでに今行なっている対処や応急処置について
  • 住所だけではわかりづらいことがわかっている場合は、来て欲しい場所の目印を伝える

地震や火災などの災害の場合は、傷病者だけではなく自分も危険です。

災害時は、その時は大丈夫でもいつ自分に身の危険が及ぶかわかりません。よって、自分の身の安全の確保が何よりもまずは優先されるべき。まずは「自分の安全」をしっかり確保した上で、余裕があれば他の人の応急処置を行いましょう。

自分が危険な場合は、なるべく早く救急隊を呼んだり、他の人に助けを求めたりするなど、できることだけを行いましょう。

心肺蘇生法(CPR)とAEDはスタッフ全員学んでおく

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命の危険が及ぶ事態になった際、医療従事者でなくてもできることの1つが「心肺蘇生法(CPR)」です。

心肺蘇生法については「心肺蘇生法の手順を1から徹底解説!大切な人を救えるように」で詳しく説明しています。ぜひご覧ください。

運動の指導にあたる人や、スポーツ現場に携わるスタッフ、さらには学校の先生などは全員、心肺蘇生法やAEDの使い方はマスターしておきましょう。

さらに、応急処置(止血法・気道異物除去)や感染予防なども学んでおけるとより良いです。最低でも1年に1回は講習を受ける(もしくは復習をする)ことをオススメします。

これらは全て、日本赤十字社で講習を受けることができます。選手、学生、子供達を預かる身として、最低限これらの知識は身につけておきましょう。

特にAEDを使っての「除細動」は、心臓が止まってしまってから「3分以内」に行うことがベストです。これは救急隊を待っていては遅すぎます。詳しくは「AEDの使い方|手順を1から詳しく解説【成人・小児・乳児まとめ】」を読んでいただけたらと思います。

緊急時対応に必要な道具・備品はしっかり準備し、保管場所を明記しておく

応急処置をするにも、それに必要な道具がなければできません。よって、緊急時や応急処置に使うであろう道具や備品をあらかじめ考えておき、準備しておきましょう。

そして更に、それらの備品はどこに保管されているのかも明記しておきましょう。慌てて「あれはどこにある!?」となってすぐ使えなかったら全く意味がありません。必要な時にすぐに使えるよう、保管場所を考えるとともに、どこにあるかもすぐわかるようにしておきます。

緊急時対応として用意しておくべきものは、以下の通りです。

  • 救急箱(止血用の包帯やゴム手袋、ガーゼ、包帯、三角巾などは必須)
  • メモ用紙とペン(救急隊に伝えるべきことをメモしておくことも大事)
  • 大量の氷や簡易プール(熱射病が起きたときに身体を迅速に冷やすため必須)
  • スパインボード(コンタクトスポーツでは必須。頭や頸椎を守ります)
  • 心肺蘇生法をする際に必要になるもの
  • AED(AEDがどこにあるかを1枚の紙にまとめておく)
  • ブランケット(身体を温めたり、女性にAEDを使用するときなどに使えます)
  • 松葉杖・車椅子など
  • 喘息用の吸入器(もし喘息持ちの選手がいれば、予備として預かっておく)

それぞれの場所で起きうる緊急事態を想定し、それが起きたときにこれがあったら良さそうだね、というものはしっかり用意して起きましょう。

AEDがある場所はしっかりと緊急時対応計画書に明記しておきましょう。もしくは、AEDがある場所が一目でわかるキャンパスマップのようなものを計画書とともに用意できると良いですね。

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5)トレーナーや指導者は必ず病院へ付き添う

救急隊が到着したら「はい安心!」、ではありません。特に、緊急事態に巻き込まれたのが未成年の場合は、必ず大人が病院に付き添いましょう。

そしてなるべく早く両親に連絡をとります。よって、特に未成年の子供を預かるスポーツチームや部活動を管理する立場の人、もしくは学校の教師は、すべての子供・選手の両親とすぐに連絡をとれる手段を確保しておく必要があります。

選手の持ち物や、もしカルテなど(基本情報が書かれた書類など)があれば、搬送される際に持っていきましょう。病院へ行ったら学生証、免許証、保険証などが必要になります。カルテなどの書類に選手の既往歴やアレルギーの有無などをあらかじめ記載しておけば、病院での対応もスムーズにいきます。

 

緊急時対応計画書の流れはこのような感じになります。

緊急時対応計画書は作って終わりではない

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たくさんの人と協力してやっと計画書を作ると、それで満足して終わりになってしまうことがあります。ですが、緊急時対応計画書は、むしろ作ってからが重要です。

緊急時対応計画書を完成させた後、更にやるべきことや考えるべきことをここからお伝えします。

1)緊急時対応計画書は1枚だけじゃない!各場所で作るべき

例えば学校での部活動の練習中(または試合中)に緊急事態が起きた時を想定して緊急時対応計画書を作成する場合、その練習や試合は外のグラウンドでやっていることもあれば、体育館でやっていることもありますね。もしかしたら学校内のフィットネスジムにいるかもしれないし、武道場がある学校もあるでしょう。

よって、緊急時対応計画書は、運動をするであろう場所それぞれ、その場その場に合ったものを作る必要があります。

外のグラウンドで何か起きたら正門に救急車に来てもらう。もし武道場で緊急事態が起きたら、武道場は西門の方が近いから救急車を呼ぶ時に西門に来てもらうように伝える、など、細かいところまでしっかり想定し、一刻を争う時にそれぞれの場所で適切な対処ができるようにします。

また、例として今は「救急車に来てもらう場所」をあげましたが、他に重要なのは「傷病者を救急車まで運ぶルートの確保」です。

エレベーターはどこにあるか、なければ階段を使う必要があるけどどこの階段を使えば迅速にそして安全に傷病者を搬送できるのか。一つ一つリアルに想像して計画書は作成される必要があります。

もし雪がたくさん降るようなエリアの場合は、雪が積もってしまった時についても考慮に入れましょう。たとえ雪が大量に降って積もってしまったとしても、計画されたルートで傷病者は搬送できるのか?安全に搬送できない可能性がある場合は、異なるルートも考えておきましょう。

2)緊急時対応のリハーサルは最低1年に1回スタッフ全員で行う

作成した緊急時対応計画書は、最低でも1年に1回は実際にやってみる(=リハーサルをする)ようにしましょう。

1つ1つ改めて行動してみて、何か不備はないか、もっと良い行動があるのかを確認し、アップデートする必要がある場合はアップデートしましょう。なかなか実践する機会がないからこそ、リハーサルの機会をちゃんと設けて復習し、いざという時にしっかり行動できるよう準備することが大切です。

また、実際に行動することで、足りなくなっている備品に気づくことができたり、こんな備品があったらもっと良いということが出てきたりします。リハーサルを通して、より良い緊急時対応計画書にしていきましょう。

このリハーサルは、救急隊員も一緒に行えるとベストです。トレーナーや指導者はこの機会を利用して、地元の救急隊員、医師、警察などとコミュニケーションをとっておけると良いですね。事前に決めておけることは決めておくことで、いざという時の迅速で適切な対応に繋がります。

3)大きな大会やイベントを催す際は、救急病院に連絡をいれておく

学校であれば運動会や文化祭、部活動であれば真夏の暑い時期に行う試合やコンタクトスポーツの大会、更には真夏のイベントやフェスなどを催す場合など、重度な怪我・病気・事故が起きる可能性をあらかじめ予測できる場合には、前もって救急病院に連絡をいれておけると良いですね。

当日に医師が現場に常駐できるのがベストですが、それが無理だとしても、その救急病院の医師などと一度事前に話し合いの場を設けて、もしそのイベント中に緊急事態が起きた場合にはどう行動して、どういう流れで病院に搬送するか、などを確認しておけると、大会・イベント当日はとても安心です。

4)大きい災害や事故から学べることは学ぶ

悲しいですが、スポーツの世界でも突然亡くなってしまう事故というのは起きています。ただ、このような出来事から私たちは学ぶことができます。しかも今の時代はグーグルで検索をすれば、詳しい情報を得ることもできます。緊急行動計画書を作成する際は、過去に起きた出来事から学んで、それを活かしましょう。以下に参考になりそうな情報のリンクをいくつか貼っておきます。

スポーツ / 部活事故・事件事例目次 – スポーツペアレンツジャパン

学校の管理下の災害【平成28年版】

学校における突然死予防必携

ちょっと調べただけでこれだけの情報・資料を得ることができました。皆さんも、それぞれ自分の現場に合わせて過去の事例を検索してみて、参考にできる部分は参考にして、緊急行動計画をたてましょう。

まとめ

作成した緊急時行対応計画書は、トレーナー、医師(もしチームドクターがいればチームドクターに。大会などでヘルプに来てくれるドクターがいればその人に)、学生トレーナー、学校や大会で安全面を統括している部署、運動指導者(監督、コーチなど)など、運動・スポーツに関わる人や、イベントの携わるスタッフ全員に配り、しっかりと理解してもらいましょう。

緊急事態は、いつ起こるかわかりません。対応次第では、何事もなく無事におさまることもあれば、命を落としてしまう人が出てきてしまうことだってあります。

あらかじめできることはしっかりと準備しておく。それをスタッフ全員で共有しておく。地域の警察、近くの救急病院にもシェアできるとなお良し。そしていざ緊急事態が起きたとき、スタッフ全員が1つのチームとして、迅速に行動できるようにしておく。

尊い命を、守りましょう。

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