「熱中症を予防する」と聞いて、最初にあなたの頭の中に浮かぶやるべきことは何でしょうか?「帽子をかぶる」「朝ごはんを食べる」「なるべく日陰を歩く」などたくさんありますが、「水分補給」をイメージする方は多いのではないでしょうか?

夏。熱中症の予防やパフォーマンスの維持に、運動中の水分補給は不可欠です。自分と、自分の周りの人が熱中症にならないようにするために、なぜ水分補給をしなければいけないのか?何をどのように飲めばいいのか?9つのポイントを解説していきます。


>>今回の参照記事はこちらです。

nata-fluid-replacementNATA Position Statement:Fluid Replacement for Athletes
NATAから出ている「アスリートのための水分補給」についてまとめられた論文です。

熱中症予防に水分補給がなぜ重要なのか?

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体内の熱はどのように体外に移動する?体温を下げる身体のメカニズム」のページでも書いたように、気温・湿度ともに高い日は、汗をかくことによる気化熱での熱の放散が、運動中に体内の熱を下げる主要な方法です。

研究の結果、「気温も湿度も高い日」は発汗による熱放散は全体の80%以上を占め、「気温は高く、湿度は低い日」は約98%は発汗によって熱が体外に放散される、ということが明らかになっています。夏、汗をかくことは、体温を下げるために(=熱中症を予防するために)とても重要なのです。

私が運営するもう1つのブログで「体温調節」について更に詳しく解説しています。「ヒトが持つ体温調節機能のメカニズム|熱の移動と放散で体温を下げる|熱中症ドットコム」もぜひお読みください。

しかし、汗をかくということは、体内の水分を失っていくということです。

運動中は、主に「汗」と「尿」によって体内の水分は失われていきます。水分補給の量が、汗と尿(他にもありますが、メインはこれら2つです)によって失われていく水分量よりも少ないと、いわゆる「脱水症状」が起きます。脱水症状とは、以下のような症状が現れることです。

  • めまい
  • 寒気
  • 頭痛
  • 脚がつる・体の一部がけいれん
  • 吐き気
  • のどの異常な乾き

この中でも、最初の脱水のサインは「のどの乾き」です。

「のどがかわく」ということ

「のどが乾いてから水分を補給しているようでは遅い」というのを聞いたことがあるかもしれません。「のどが乾いているということはもう脱水が始まっている」というのは、これは事実です。

「のどの乾き」は、筋肉の弾力性や緊張に反応します。つまり、筋肉から水分が失われてくると、のどが乾いてくるようになっているのです。身体ってすごいですね。

いくつかの研究では、体重の1.7〜3.5%の水分が身体から失われたときにのどが乾いてくる、という結果が出ています。のどが乾いているということは、筋肉からすでに水分がなくなっているからなんですね。だから、のどが乾く前からこまめに水分を摂っておくと良いのです。

たった1.7〜3.5%の水分がカラダから失われたくらいでそんな焦る必要ないでしょ、と思う人もいるかもしれませんが、これは大問題なのです。

水分を失うとパフォーマンスレベルが下がる

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まず注目すべきことは、「体重の1〜2%の水分が身体から失われると、パフォーマンスの低下が始まる」ということ。更に、「体重の3%以上の水分が失われると、さらに身体機能がうまく働かなくなり、パフォーマンスの低下はもちろん熱中症になる危険性が一気に高まる」ということもわかっています。体重の3%というのは、体重50キロの人で1500グラム(=1.5リットル)です。

そんなに大量の水分が減ることなんてないでしょ、って思うかもしれませんが、体重の3%の水分を失うというのは、人によってはしっかり水分補給をしていないと、トレーニング開始から1時間ほどで達してしまうこともあるくらいの量なのです

熱中症予防のための水分補給を効果的に行うための9つの方法

それではここから、具体的に水分補給について、どのように、何を、どれくらいとればいいのかを紹介していきます。

1)練習中は少ない量をこまめに補給

たくさんの量を一気に飲んでも、全てが体内にしっかりと吸収されません。こまめにとって、効率的に体内に水分を補給してあげましょう。

2)個人用のボトルで自分の水分補給量を知る

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個人個人でそれぞれマイボトルを用意することで、自分はどれくらい水分を補給しているのか、またはしていないのかがわかります。そのボトルが透明だとなおいいですね。外から見てもわかるので、自分の水分補給具合を常にチェックすることができます。

スポーツ用のウォーターボトルを検索すれば、透明で中身が見えるものが出てきます。マイボトルを持っていない人は是非。

 3)水分が補給された状態で運動・練習を始めるべき

いくら「練習中」にしっかり水分補給をしていたとしても、「練習を始める時に(=練習前の段階で)」すでに脱水状態であったら、最初からパフォーマンスが低下した状態で練習を始めることになってしまいます。水分補給は運動中だけ行うのではなく、1日を通して常に、こまめに、行うことが大切です。

4)練習前の水分補給の具体的な量

ではどれくらい練習前に水分を補給しておけば良いのかというと、具体的な例が以下の通りです。

  • 練習の2〜3時間前に500〜600mL(ペットボトル1本くらい)の水 or スポーツドリンク
  • 練習の10〜20分前に200〜300mL(コップ一杯くらい)の水 or スポーツドリンク

人によって運動前にとるべき水分補給量は違います。よって、これくらいを目安にまずは水分補給をしてみましょう。そして、下で紹介する水分補給ができているかのチェックも組み合わせて、自分はどれくらい練習前に水分を補給すれば良いのかを調べていきましょう。

4−1)水分補給ができているかのチェック方法

それでは、今自分は水分がしっかりと補給できているのかどうかを知る方法をお伝えします。

A)おしっこの色チェック

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一番簡単な方法が、尿(おしっこ)の色をチェックすることです。上画像で言うと左側の「薄い黄色」をキープすることが大切です。

おしっこの色チェックシートについては「熱中症を100%予防するために知っておくべき6つのポイント」でも詳しく解説しています。ぜひこちらもお読み下さい。

B)練習前後に体重を測る

もう一つの方法が、練習中の体重の増減をチェックすることです。参考にした論文にも、練習中の体重増減が、体内の水分状態を知る1番の方法であるとあります。

練習前に体重を測り、練習中も何度か体重を測る。練習中は、練習前の体重をキープするようにこまめに水分補給をしましょう。最低でも体重減少を2%以内におさえると、熱中症になる危険性は低いです。

自分の体重の1%減、2%減、3%減を覚えておくといいと思います。

5)運動・練習中の水分補給の量とタイミング

これは汗のかきやすい人・あまりかかない人などで個人差があるので「これくらいとれば絶対大丈夫」とは言えないのですが、一般的には、10〜20分ごとに200〜300mL(=コップ一杯くらい)の水分をとるといいようです。

6)練習後は、練習中に失った水分をしっかり補給

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この練習後の水分補給は、水分の他に、炭水化物筋肉・肝臓内のグリコーゲンの蓄えを補給するため電解質細胞・臓器の機能回復/水分補給の促進のためを含むといいです。

電解質:ナトリウム・カリウム・カルシウム・マグネシウムといった物質のことで、5大栄養素の1種類であるミネラルに属します。

というのも、代謝・心肺機能・体温調節機能などのたくさんの体内の機能の回復に、水分と炭水化物を練習やトレーニング後に摂ることは不可欠なのです。なるべく早く疲労回復のプロセスを始めるために、練習後の水分補給は、ぜひ2時間以内に済ませましょう。

7)補給する水分の温度は10〜15℃がベスト

補給する水分の温度は、トレーニング中に補給する水分の量に影響を与えることがわかっています。個人の好みももちろんありますが、10〜15℃くらいの冷たさがちょうどいいのではないか、と参考文献では薦められています。

8)水分と同時に炭水化物の補給も大事

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練習の2〜3時間前に炭水化物(糖質)をとって、運動中にエネルギー不足にならないようにしましょう。もしハードなトレーニングをするのであれば、30分前にも軽く炭水化物をとりましょう。

また、練習・トレーニングが50分以上続くのであれば、炭水化物を含むドリンクを用意しておいて、練習中にこまめに補給しましょう。

炭水化物を含むドリンクの代表的なものといえば、ポカリスエットやアクエリアスのようなスポーツドリンクですね。このようなスポーツドリンクには電解質も含まれているので、運動中だけではなく、運動前や運動後の水分補給にも適しています。

ですが、よく「あのスポーツドリンクは糖分が多すぎるから薄めて飲んだ方がいい」というようなことを聞いたことがあるかもしれません。たとえ薄めて飲むとしても、どれくらい薄めたらいいのか。水とスポーツドリンクを半々にするといいのか。もっと水が多めの方がいいのか。

今回の参考文献である水分補給に関するPosition Statementには、炭水化物6%のドリンクが、トレーニング中に飲む理想のドリンクだろうとなっています。

運動の強度によりますが、運動中に体は1時間で約30〜60gの炭水化物(=グリコーゲン)を使います。炭水化物が6%のドリンクは、1時間で消費される炭水化物とほぼ同量の炭水化物を補給することができるため、グリコーゲン減少を防ぎます。

8−1)ポカリとアクエリの炭水化物量を比較

ちなみに、ポカリスエットとアクエリアスはどれくらいの炭水化物が含まれているのでしょうか。

  • ポカリスウェット:6.2g(100mLあたり)(大塚製薬のウェブサイトより)
  • アクエリアス (ペットボトル製品):4.7g(100mLあたり)(日本コカ・コーラのウェブサイトより)

これをパーセントになおすと、ポカリスエットは6.2%、アクエリアスは4.7%の糖質を含むドリンクであるということがわかります。つまり、炭水化物6%のドリンクが理想と考えるならば、練習中に飲むドリンクとしてはポカリの方がいいのかな、と思います。

8−2)運動中の水分補給として不向きなもの

ドリンクに含む炭水化物が8%以上になると、運動中に消費する以上の炭水化物を補給することになるので、体内の炭水化物の量は増えます。しかしその分、胃から水分を減らして腸で吸収する割合が減ってしまうため、水分の吸収のスピードが遅くなってしまいます。これは長時間のトレーニングになると、熱中症になる危険性を高めます。

よって、炭水化物8%以上を含むドリンクは、練習中のドリンクには不向きです(糖質を補給する必要のある練習前や練習後は問題ありません)。

この他に、練習中に飲むものとして不向きなのは、以下のようなものが挙げられます。

  • カフェインを含むもの(コーヒー・紅茶など)

カフェインは利尿作用というものがあります。これは簡単に言うと、すぐおしっこにいきたくなるという作用。練習中にコーヒーや紅茶などのカフェインを含むものをとってしまうとこの利尿作用が働き、どんどん水分が出ていってしまい、脱水を促すことになります。

  • 炭酸飲料(コーラなど)

炭酸は胃をふくらませる効果があるため、お腹いっぱいだなーという感覚を与えます。それによって、水分をあまりとらなくなってしまうため、脱水になりやすくなります。

8)指導者・選手自身の熱中症・脱水症状・水分補給に関する知識

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熱中症予防のキーポイントの1つは「早期発見」です。

明らかに体調が悪そうな選手がいれば、誰でも見つけることができるし、選手自身も「明らかにおかしい」と気づきます。しかし、その選手はもしかしたらもっと前から脱水や熱中症の症状が出ていたのかもしれません。もし早い段階でその症状に自分が、もしくは周りの誰かが気づいていれば、早めに水分補給や休憩をとるなどの対策をとることができ、そこまで体調が悪くなることはありません。

脱水症状の早期発見は、熱中症がひどくなるのを防ぎます。トレーナーが練習や試合の場にいるのが一番ですが、夏は特に、監督やコーチなどが選手の様子をしっかり見てあげることが大切です(脱水の症状は上記しています)。

腹痛や吐き気がなければ、積極的に水分補給を行います(一気にガブガブ飲むのではなく、ちょっとずつこまめに)。もし気持ち悪くて何も飲めなかったり、飲んでも吐いてしまう場合は、病院へ行きましょう。

9)練習中に電解質を含んだドリンクを飲むべき状況

以下のコンディションに当てはまる日は、練習中は水だけではなく、電解質(ミネラル・塩分)を含む水分を補給しましょう。

  • 4時間を超える練習
  • 暑くなってきてから(気温が高くなってきはじめてから)の数日間
  • 練習前にしっかり食事をとらなかった(←とらなきゃダメです)

1リットル中に0.3〜0.7gの塩分を含むドリンクは、汗による塩分の損失をしっかり補い、足がつったり筋肉がけいれんするのを防いでくれます。また、塩分はのどの乾きを促すため、選手自身による自発的な水分補給を促すという効果もあります。

まとめ

熱中症を防ぐためには、やはり監督やコーチ・部活の顧問の先生・親がしっかりと知識を持ち、選手たち・子どもたちが熱中症にならないための環境づくりをしてあげることが一番大事なんじゃないかなと思います。

親は「練習中はちょこちょこ水飲むんだよ」と常に言い聞かせることや、練習から帰ってきたらすぐご飯が食べられるように準備をしておくことが、熱中症を防ぎます。

監督・コーチ・顧問の先生は、練習中に水分補給の時間をこまめにとってやること。または、水分を自分で用意してこなかった子のために、水を用意してあげたり。体調が悪い子が、素直に「体調悪いです」と言えるような環境・チームの空気をつくってあげることもとても大事です。

または、トレーナーの人を講師として呼んで、熱中症について勉強するような機会をつくるのもいいですね。熱中症の予防は、選手自身の意識も大事になってきますからね。

熱中症は100%防ぐことができます。しっかり準備をして、暑い夏をみんなで楽しく乗り切りましょう。

【まとめ】最新の科学的根拠に基づく熱中症予防のための水分補給|熱中症ドットコム」の記事もぜひお読みください。

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