「肉離れ」ってしたくないですよね? 運動・スポーツをしているなかで、特によく起こる肉離れの部位として挙げられるのが「ハムストリング(=もも裏)」です。
ハムストリングを肉離れすると、数日〜数週間の間、痛いのはもちろん、生活も不自由になります。
本記事では、まずハムストリングの肉離れが起こる原因を紹介します。どんな怪我でも、原因を知ることで、予防法を考えることができます。
また、ハムストリングを肉離れした時に現れる症状を紹介します。症状を知らないと、肉離れをしたのか?それともただの筋肉痛なのか?の区別がつきませんし、症状を知ることで早めの応急処置ができ、結果として早期回復・復帰につながります。
米国公認アスレティックトレーナー(BOC-ATC)として、ハムストリングを含む様々な部位の肉離れを処置してきた私が、研究論文を参考に、ハムストリングの肉離れが起こる原因(メカニズム)と、なってしまったときに現れる典型的な症状について紹介します。
>>参考にした論文はこちらです。
- Hamstring Strain Injuries: Recommendations for Diagnosis, Rehabilitation, and Injury Prevention
ハムストリングの肉離れの見分け方、リハビリの方法、そして肉離れにならないための予防法を紹介した論文です。 - Risk factors for hamstring muscle strain injury in sport: a systematic review and meta-analysis
ハムストリングの肉離れのリスクファクター(要因)はなんなのか、をまとめたシステマティックレビューです。
ハムストリングの肉離れについて知っておくべきこと
肉離れとは、急激に筋肉が収縮した結果、筋膜や筋繊維の一部が損傷すること(Wikipediaより)を言います。
基本的に、 体のどこの筋肉でも肉離れは起こる可能性がありますが、特にスポーツをしている中で起こることが多いのが、ハムストリングの肉離れです。
1998年から2017年までの10年間で、ある1つのNFLチーム(アメリカのプロアメフトリーグ)で起きたすべての怪我を集計した結果、ハムストリングの肉離れは2番目に多く起きた怪我でした(1番多かったのは、膝の靭帯の怪我)1。
ハムストリングの肉離れの原因となるメカニズム
ハムストリングに限らず、筋肉の肉離れが起きるメカニズムは「筋肉に力が入った状態で、素早くストレッチされたとき」です(専門用語を使うと「エキセントリック収縮がかかっているとき」です)。
ハムストリングという筋肉は、「股関節を伸ばす(=脚を後ろ側へ引く動き)」と「膝を曲げる」動きをする筋肉です。
それとは逆に「股関節を曲げる(=脚を前側に曲げる動き/股関節屈曲)」と「膝を伸ばす(=膝関節伸展)」動きをすることで、ハムストリングはストレッチされます。
つまり、ハムストリングの肉離れの原因として一番起こりやすいメカニズムは、「速い動きの中で、股関節が曲がり、膝は伸びた状態になったとき」と言えます。
上写真を見てみます。「右脚=ボールを蹴ろうとしている脚」は、股関節は伸びていて、膝は曲がっているため、これはまさにハムストリングが行う動きをしており、収縮しています(=短くなっている)。
逆に「左脚=軸足となっている脚」は、股関節は前側に曲がっていて、膝が伸びている状態ですね?
つまり、サッカーボールを蹴る動きで考えると、軸足側のハムストリングが肉離れしやすい動きをしていることになります。
ハムストリングの肉離れの原因となる動き
具体的に、どんなときにハムストリングの肉離れが起きやすい動きをしているかというと、例えば下記のようなときです。
- ジャンプする瞬間
- ジャンプから着地する瞬間
- ダッシュをしている時の、前足を地面につけた瞬間
- 突然のダッシュ・ダッシュからの突然のストップ
- 走り幅跳び・走り高跳びなどの踏切の瞬間
- ボールを蹴るときの、軸足を着地した瞬間
共通点は、速い動きをしているときに「自分の身体よりも前側で足をついた時」です。
ハムストリングの肉離れの原因となり得るリスクファクター
次に、ハムストリングの肉離れになりやすくなる主なリスクファクター(=原因となり得るもの)を紹介します。
以下のものに多く当てはまるほど、上記したハムストリングの肉離れが起こりやすい動きをしたときに、実際に肉離れを起こしてしまう確率が高いということになります。
1)年齢の高さ
多くの研究で、年齢とハムストリングの肉離れは深く関係がある、と報告されています。もう少し具体的に言えば、より年齢が上のアスリートは、若いアスリートと比べると、ハムストリングの肉離れになりやすい傾向にある、ということです。
ある1つの研究では、17〜22歳のサッカー選手と23歳以上のサッカー選手の、ハムストリングの肉離れの起きた割合を比べた時、17〜22歳の選手たちの方が少なかった、と報告しています。
2)既往歴(=以前にケガをしたことがある)
多くの研究で、以前にハムストリングの肉離れをしたことがある人は、再び肉離れをする可能性が高いと報告しています。
更にある研究では、前十字靭帯を手術した経験のある人、もしくは膝の怪我をしたことがある人は、ハムストリングの肉離れになりやすいという報告もあります。
3)柔軟性の低下
柔軟性も、ハムストリングの肉離れと関係があるようです。
ですが、ここでしっかりと知っておいてほしいのは、ハムストリング自体の筋肉の柔軟性は、ハムストリングの肉離れが起きやすくなる原因としてまだしっかりと証明はされていません。
簡単に言うと、「ハムストリング」が硬いからといってハムストリングの肉離れになりやすいわけではなさそうだ、というのが現在の研究でわかっていることです。
ここで言う柔軟性というのは、実はハムストリングのことではなく、違う筋肉のことを言っています。違う筋肉の柔軟性が低下することによって、ハムストリングの肉離れが起きるリスクが上がることがわかっています。
研究で報告された、柔軟性が低下することで、ハムストリングの肉離れに関係すると考えられる筋肉は以下の通りです。
- 股関節屈筋群:腸腰筋・大腿四頭筋・大腿筋膜張筋 など
- 足関節背屈筋:前脛骨筋・腓骨筋 など
これらの筋肉の柔軟性を高めてあげることが、ハムストリングの肉離れの予防につながるかもしれません。
4)大腿四頭筋のピークトルクの高さ
ピークトルクとは、体重 (kg) あたりの関節のトルクの大きさ (Nm) で表される、筋力を比較するための指標のこと。簡単に言えば、筋力の強さの値です。
つまり、大腿四頭筋の筋力が強ければ強いほど(または、大腿四頭筋と比較してハムストリングの筋力が弱いと)、ハムストリングの肉離れになる可能性が高くなるようです。
5)機能的脚長差
これは少しトレーナー向けですが、「機能的な脚の長さの不一致(=Functional Leg Length Discrepancy)」が1.8cm以上あると、ハムストリングの肉離れになりやすくなる、ということが報告されています。
「機能的な脚の長さ」とは、おへそから内側のくるぶしまでの長さのことを指します。
ハムストリングの肉離れの症状
ハムストリングの肉離れになるとどんな症状が出るのか?ハムストリングの肉離れの特徴的な症状は、以下の3つです。
1)ハムストリングへの突然の痛み
運動・スポーツ中、突然もも裏に鋭い痛みを感じたときは、ハムストリングの肉離れが疑われます。
ひどいときは、筋膜や筋繊維が切れる「ポンッ」という音が、もも裏から聞こえるときもあります。
2)ハムストリングに力が入らない(筋力の低下)
ハムストリングを肉離れすると、力がうまく入らなくなったり、力をいれると痛みが出ます。
肉離れをした足に体重をかけると痛みが出るため、歩くことや走ることができなくなり、足をひきづるようになります。
もしハムストリングが切れるような音を聞いたり、全く体重がかけられず歩けない、となった場合は重症度が高い場合があるので、すぐに病院(整形外科)を受診しましょう。
3)ハムストリングをストレッチすると痛みがある
一番最初に言ったように、肉離れとは筋膜や筋繊維の一部が損傷すること。ストレッチをすることで筋肉は伸び、筋膜や筋繊維も伸びるので、もし肉離れによってが筋が傷ついていると、ストレッチで痛みが発生します。
4)腫れ・内出血(アザのようになる)
肉離れが起きてから数時間たつと、その部位が腫れてきます。
ひどい肉離れの場合は内出血が目に見えてわかります。アザのように紫色に変色してきます。
まとめ
ハムストリングの肉離れが起こってしまう原因と症状について解説しました。
ハムストリングの肉離れになってしまうと、平均で8〜25日間はチーム練習からは離れることになるという統計があります。
さらに、一番覚えておきたいことは、ハムストリングの肉離れになった人の約3分の1は、スポーツに復帰してから約2週間で再び肉離れをしてしまう(=再受傷の)可能性がすごく高いということ。
つまり、ハムストリングの肉離れをしてしまったら、まずはすぐに応急処置をすること。そして、しっかりとしたケアとリハビリを行わないと、また同じケガを繰り返してしまうことになります。
【追記】ハムストリングの肉離れのケア・リハビリについて記事「ハムストリングの肉離れを早く治すためにするべき処置とリハビリ方法」と、予防エクササイズをまとめた記事「ハムストリングの肉離れの再発を予防するエクササイズ6選」を書きました。こちらもぜひご覧ください。
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