CHAINONの読者さんから質問をいただきました。

フットサルをやっている43歳の男性で、ハムストリングの軽い損傷を繰り返しているとのこと。

MRIでは損傷が見られないため、おそらく筋膜の損傷ではないか、という診断を受けているようです。

色々なトレーニングやケアを試したけどなかなかしっくりこなかったところ、CHAINONの「ハムストリングの肉離れを早く治すためにするべき処置とリハビリ方法」の記事にたどりつき、一番しっくりきたということで、実行いただいているようです。嬉しい話です。

そんななか「トレーニング前後のハムストリングのストレッチやケア方法を知りたい」というのがご質問でした。

そこで今回は、ハムストリングの肉離れを既往歴に持つ方が、再発を予防するために行うべきエクササイズをご紹介します。

特別な道具を必要としないので、自宅で行っていただいたり、運動前のウォームアップに取り入れやすいエクササイズも多いので、ぜひ参考にしてみてください。


>>今回の参考文献はこちらです。

1. Risk factors of recurrent hamstring injuries: a systematic review
ハムストリングスの怪我を再受傷してしまうリスクファクターに関しての、2012年発表のシステマティックレビューです。

2. The effectiveness of exercise interventions to prevent sports injuries: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials
「筋トレ」「ストレッチング」「固有受容器系トレーニング」「コンビネーションプログラム」を比較し、怪我の予防に効果的な運動を検証したメタアナリシスです。

3. Exercise interventions to prevent hamstring injuries in athletes: A systematic review and meta-analysis
2019年にEuropean Journal of Sport Scienceで発表された、アスリートのハムストリングの怪我を予防するためのエクササイズについて研究されたメタアナリシスです。

4. Effects of warm-up on hamstring muscles stiffness: Cycling vs foam rolling
ハムストリングの硬さをとるために、ウォームアップで「バイクを漕ぐ」ことと「フォームローラーを行う」ことの効果を比較した研究です。

5. Does the FIFA 11+ Program Prevent Hamstring Injuries in College-Aged Male Soccer Players? A Critically Appraised Topic
FIFAが筋力強化と下肢の怪我予防を目的に開発した「FIFA 11+プログラム」の効果を検証した研究です。

ハムストリングの怪我は再発しやすい

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Visserらによるシステマティックレビュー1によれば、1回目のハムストリングの怪我が起きてから2年間で再発をしてしまう確率は「13.9〜63.3%」と示されています。

更に、1回目の怪我よりも2回目の怪我の方が重症になりやすいことや、2回目の方が復帰に時間がかかることも、多くの研究によって明らかにされています。

よって、ハムストリングの怪我を1回でもしたことがある場合は、しっかりとしたリハビリプログラムを行って運動・競技に復帰することはもちろん、復帰後も継続した怪我予防トレーニングを行うことがすごく重要になります。

怪我の予防プログラムに「筋トレ」は必須

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では、怪我を予防するために、どのような運動プログラムを行うべきなのでしょうか。

Lauersenらによる「怪我予防プログラム」の効果について検証したメタアナリシス2は、「筋トレ(Strength Training)」が最も怪我の予防に効果があった、と報告しました。

逆に、予防効果が確認されなかったのが「ストレッチング」

まだまだ多くの運動指導者が、怪我を予防するためにはストレッチングが重要!と考え、特に怪我をした後の選手には「とりあえず毎日ストレッチしなさい!」という指導をしている人が多いように思います。

もちろんストレッチングによって、筋肉の柔軟性など向上させる効果はもちろんあるので、ストレッチングをしても意味がないと言っているわけではなく、もちろん目的によるのですが、「ストレッチングさえ毎日しておけば怪我を予防できる」というのは、現段階では誤りです。

ハムストリングの肉離れに限らず、筋肉系の怪我をなるべくしないように予防したいと考える方は、しっかりと筋肉に負荷をかけるようなエクササイズを行いましょう。

ハムストリングの肉離れ再発予防エクササイズ6選

では具体的に、ハムストリングの肉離れを含めた怪我を予防するために行うべきオススメのエクササイズを紹介していきます。

1)ノルディック・ハムストリング・エクササイズ

ハムストリングのリハビリエクササイズとして、もしくは筋トレとして、多くの研究が行われているエクササイズの1つが「ノルディック・ハムストリング・エクササイズ(Nordic Hamstring Exercise)」です。

2019年のメタアナリシス3では、このノルディック・ハムストリング・エクササイズは、ハムストリングの怪我予防としてかなり効果的なエクササイズであろう、と結論づけられています。

ハムストリングの肉離れが起きる瞬間で多いのが「ランニング動作での前足が地面に着く瞬間」です。

これはつまり「ハムストリングが伸ばされながら」「体重がかかって収縮している(=エキセントリック収縮)」ときと言えるのですが、ノルディック・ハムストリング・エクササイズは、この状態にかなり近づけることができるエクササイズと言えます。

ただ、このエクササイズのLimitationとして「動きが膝に限られる」ことが明記されています。

スポーツを行う中の動きとして「股関節がまったく動かずに膝だけが動く」というシチュエーションはほぼないため、実践的な動きのエクササイズではない、とする研究もあります。

よって、ノルディック・ハムストリング・エクササイズさえやっておけば予防できる、ということではないことを踏まえ、他のエクササイズも組み合わせることは必要でしょう。

2)シングルレッグ・ルーマニアン・デッドリフト

こちらもハムストリングの筋トレエクササイズとして有名なものの1つです。RDL(アールディーエル)と呼ばれたりもします(Romanian Deadliftの略です)。

2019年のメタアナリシス3では、片脚でバランスをとりながら行うことによって「筋肉同士の協調性(=色々な筋肉が同時に協調しながら働く力)」を鍛えることができ、それによってハムストリングを含めた下肢の筋肉の怪我を予防する効果がある、と示しています。

ダンベル等を持つことによってより負荷の高い筋トレになりますが、ウォームアップで取り入れる場合は、何も持たずに自重で行っても充分です。

バランス系のエクササイズは、運動前のウォームアップとして取り入れやすいので、ぜひこの片脚で行うRDLをウォームアップエクササイズの1つとして加えましょう。

3)ジョギング・エアロバイク

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「ハムストリングの柔軟性の低下」が、怪我の再発に影響を与える可能性があることが示唆されています。

よって、メインの運動前に行うウォームアップで、ハムストリングの硬さをとり、柔軟性をアップさせておくと良いと考えられます。

柔軟性を向上させると聞くと「ストレッチ」を思い浮かべる方が多いと思います。

実際ストレッチを行うことで柔軟性は確かに向上するのですが、上記したように、ストレッチを行うことで「怪我を予防する」という効果は、これまでの研究では確かになっていません。

Morales-Artachoら4によって行われた、ウォームアップで「バイクを漕ぐ(15分)」ことと「フォームローラーを行う(15分)」ことで、ハムストリングの柔軟性にどれくらい違いが見られるか?という研究を見ると、バイクを漕ぐだけでも充分にハムストリングの柔軟性が向上したことを明らかにしています。

また、バイクとフォームローラーを比較しても、バイクの方が柔軟性の向上が見られました。

過去の研究でも、アクティブなウォームアップ(ジョギング・エアロバイクなど)の方が、パッシブなウォームアップ(ホットパック・静的ストレッチなど)よりも、より筋肉の硬さをとり、関節の可動域を向上させることがわかっています。

フォームローラーを行うことは「アクティブ」に属すると私は考えますが、比較するとバイクの方が結果が良かったことから、ハムストリングの怪我予防を考えると、ウォームアップにジョギングやバイクを漕ぐ時間を作るべきでしょう。

さらに、Morales-Artachoらの研究では「バイク(15分)」と「バイク+フォームローラー(15分+15分)」でも柔軟性アップの効果を比較していますが、こちらは少しの差ですが「バイク+フォームローラー」に軍配が上がりました。

よって、もしウォームアップにより時間をかけることができるのであれば、ジョギングやバイクを行ったあとにフォームローラーで筋肉をほぐす時間をつくり、その後にハムストリングにより負荷をかけるようなエクササイズを行うと良いでしょう。

筋肉の柔軟性には「筋肉の温度(=筋温)」も重要になります。ジョギングやバイクでせっかく上がった体温・筋温が、もしフォームローラーを行っている時間で下がってしまっては効果半減です。フォームローラーを行う場合は、体温・筋温が下がらないように注意しましょう。

4)ウォーキングランジ

Vatovecらによるメタアナリシス3をはじめとして、多くの研究(被検者はサッカー選手がほとんど)によって「FIFA 11+プログラム」をウォームアップで行うことで、ハムストリングの怪我の予防に効果的であると示されています。

>>FIFA 11+プログラムの全エクササイズをご覧になりたい方は「FIFA 11+ 日本語版|JFA.jp」からどうぞ。

FIFAが開発したプログラムということで、サッカーやフットサルなどを行っている方、もしくは指導者は、ぜひチェックしてみてください。

全部で27のエクササイズが紹介されていますが、この中でも特にオススメなのが「ウォーキングランジ」です。

特別な道具はいらず、ウォームアップにも取り入れやすく、ハムストリング・大腿四頭筋・臀筋群といった下半身の大きい筋肉にしっかりとした刺激が入ります。

過去記事「ハムストリングの肉離れを早く治すためにするべき処置とリハビリ方法」でも「ボスボール・ランジ」を紹介しているように、ランジの動作は実際のスポーツでの動きにも近いものがあるため、ウォームアップにぜひ取り入れるべきエクササイズの1つです。

ちなみに、1で紹介した「ノルディック・ハムストリング・エクササイズ」も、このFIFA 11+プログラムにも含まれています。

5)ラテラルジャンプ

「ジャンプ動作」はすごく強度の高い活動であり、ウォームアップに取り入れることで、体温アップや下半身の筋肉のアクティベーション、さらには神経伝達をスムーズにする役割もあります。

FIFA 11+プログラムにもラテラルジャンプが含まれており、ハムストリングの怪我を含めた下半身の怪我予防に効果的と考えられます。

過去記事「膝の前十字靭帯(ACL)損傷を予防するトレーニング20選」でもこのラテラルジャンプを紹介しています。

ラテラルジャンプが良い点は「横方向の動き」であるということ。

専門のコーチやトレーナーの方がいなくて、自分でなんとなくで運動前にウォームアップを行うと、多くの動きが「前後の動き」に偏ることが多いです。

ですが多くのスポーツは前後・左右・斜め・上下とあらゆる方向に体を動かしますよね?

よって、ウォームアップでも様々な方向に体を動かしたほうが良いのです。

特に「ジャンプ動作」が行われるスポーツを行う方(バスケ・バレーボール・サッカーなど)は、ぜひウォームアップにこのラテラルジャンプを取り入れてみてください。

6)バウンディング

より「ランニング」「ダッシュ」に近い動きであり、ジャンプ要素も入った素晴らしいエクササイズの1つが「バウンディング」です。

このバウンディングも、FIFA 11+プログラムや膝の前十字靭帯損傷予防トレーニング20選に含まれているエクササイズであり、ハムストリングの肉離れ再発を予防したい方はもちろん、走る動作が含まれる運動を行う方は、ぜひウォームアップで行いたいエクササイズの1つです。

まとめ

この記事を書く際、なんとなく「8つ」くらいのエクササイズを紹介できたらいいかなと考えていたのですが、資料を集めて読んでみると、どれも同じようなエクササイズを推奨しており、結果6つとなりました。

全部を取り入れなくても、この中から気に入ったもの数個を、あなたのウォームアッププログラムに取り入れるでもOKです。

ぜひ今回紹介した6つのエクササイズを試してみて、感触が良ければ、ぜひウォームアップに取り入れたり、トレーニングで行うことで、ハムストリングの肉離れの再発予防につながると思います。

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