熱中症と一言に言っても、実は種類があります。それぞれの熱中症によって、現れる症状やするべきケアが少しずつ違ってくるので、しっかり4種類の熱中症を知って、最適なケアができるようになりましょう。
>>参考にした論文はコチラ。
「NATA Position Statement: Exertional Heat Illnesses」
National Athletic Trainers’ Association(全米アスレティックトレーナー協会)より、運動中の熱中症についてまとめられた論文です。
「Heat Illnesses|Korey Stringer Institute」
Korey Stringer Instituteによる熱中症についてのページです。素晴らしい情報が詰まっているサイトです。
熱中症は4種類ある
それでは早速、4種類の熱中症それぞれの特徴を見ていきましょう。
1)熱けいれん(Exercise-associated muscle heat cramp)
熱けいれんとは、運動中や運動後に起こる痛みを伴った筋肉のけいれん・こむら返りのことです。熱けいれんが起きる原因は、以下のようなものがあげられます。
- 暑熱馴化がまだできていない状態での、暑い環境での練習(暑熱馴化については下で)
- 大量の汗による脱水や塩分(電解質)不足
熱けいれんの症状は以下の通り。
- 脱水/発汗
- のどの乾き(=発汗によって水分と塩分が失われるので)
- 痛みをともなった目に見える筋肉のけいれん(=足がつる)
2)熱失神(Heat Syncope)
気温が高い日、体内の熱を下げるために体は「汗」をかこうとします。汗をかくために、血液はどんどん手足の方 (体の末梢側) に集まり、末梢側の血管が拡大します。
運動中は、体は全身の筋肉を使っているため、血液は全身を循環していますが、運動をやめた直後や休憩中は、必死に体内の熱を体外に放出しようと、血液は手足の方に集まっています。
つまり、血液が手足に集まっている分、脳の血液が少なくなります。その状態で再び練習を始めようとしたり、しばらく座っていた状態から立ち上がろうとすると、頭がクラッとしたり、立ちくらみ(=熱失神)が起きます。
このようなメカニズムで、夏に起こる立ちくらみを「熱失神」と言います。
熱失神の原因は以下のようなものです。
- 気温が高い環境下での運動
- 暑熱馴化がまだできていない(暑い環境下で運動をはじめてすぐが一番熱失神になりやすい)
- 脱水(脱水状態になると体全体の血液の量も減るため、必然的に脳への血液量も減ります)
- 立ちっぱなしから突然動いたり、座りっぱなしの状態から突然立つ(筋肉の活動なしにずっと立っていたり座っていたりすると、血液は末梢にたまるので、心臓や脳への血液量が減っています)
熱失神の症状は以下のとおり。
- くらくらする/めまい/失神
- 脈が弱くなる/脈が減る
- 視野が狭くなる(管状視野)
- 意識もうろう/意識喪失
- 脱水
- 青白く汗をかいた肌
- 体温は正常
熱失神が起きる原因として「暑熱馴化をはじめて間もないとき」をあげました。詳しいことは暑熱馴化の記事に書いたので、ここでは簡単に。
暑熱順化については「暑熱馴化の方法|夏の暑さに身体を慣れさせて熱中症を予防する」をお読み下さい。
暑熱馴化とは、夏の暑さに体が馴れる(=なれる)こと。夏の暑さに、体は順応します。
体は、暑さに対応するために、自ら血液の量を増やします。血液の量が多いと、より効果的に汗をかくことができるため、体内の熱を効果的に体外に放出すことができます。
ですが、夏に突然、体内の血液の量が増えるわけではありません。夏に外でトレーニングをして、体が「これは血液量増やした方がいいな」って感じてから、数日かけて血液の量を増やしていきます。
つまり、暑熱馴化のし始めはまだ体は暑さに対応できていなくて、血液の量もまだ少ない。だから汗をかくために血液が手足の方へ流れたとき、脳への血液が少なくなって、熱失神が起きるのです。
3)熱疲労(Exertional Heat Exhaustion)
熱疲労になると、エネルギー不足や、十分な血液が心臓から筋肉や臓器に送られなくなることによって、運動をそれ以上続けられなくなります。
熱疲労の原因は、以下のようなものがあげられます。
- 暑い環境下(特に気温33℃以上のとき)
- 脱水/大量の発汗による塩分の損失
- エネルギー不足(練習前に食事を抜いたり、足りなかったり)
- 練習中の休憩時間の短さ
熱疲労の症状は以下のとおり。
- 深部体温37〜40℃
- めまい/失神
- 頭痛
- 青白い顔・肌/冷たくてジトジトした肌
- 悪寒
- 脱水/大量の汗による塩分の損失
- 吐き気/嘔吐
- 下痢
- 過呼吸
- 血圧の低下
4)熱射病(Exertional Heat Stroke)
熱射病は、深部体温の上昇(40℃以上)と、中枢神経系に異常をきたすことにより、体内にある体温を調節するシステムが機能しなくなったとき起こります。熱射病は最悪の場合、死に至ることもあります。
熱射病が起きる1番大きな原因は、体内にとんでもない熱が生まれ、その熱を体外に放出できなくなること。それを生み出してしまう原因を、内因性(自分自身に原因がある)のものと、外因性(周りの環境に原因がある)のものの2つに分けて紹介します。
内因性の原因
- 過去に熱射病になったことがある
- 暑熱馴化がまだできていない
- フィットネスレベルが低い(普段あまり運動をしない人)
- 肥満
- 脱水状態
- 睡眠不足/体調不良
- 試合や大会の日(普段よりも運動強度が上がる)
- 思春期の選手
外因性の原因
- 気温と湿度/WBGTが高い日
- 運動強度が高いトレーニング(+休憩をしない/短い)
- 運動中の衣服(防具や、汗が蒸発しにくい服)
- 指導者やトレーナー、選手自身の熱中症に関する知識のなさ
- 熱中症対策/準備不足(水風呂, 氷や冷たいタオル, 扇風機, 水分や塩分補給できるもの etc.)
熱射病の症状は以下のとおり。
- 深部体温が40℃以上
- 中枢神経系の異常(理性のない言動/わけわからない行動/うわごと/情緒不安定/混乱)
- 意識もうろう/昏睡状態
- 熱疲労の症状(脱水/頭痛/嘔吐/下痢/過呼吸/低血圧 など)
- 頻脈(1分で100〜120回の速い脈)
- 熱くて乾燥した肌/汗をかいていない肌
深部体温40℃以上が長時間続いてしまうと、体内の組織・臓器に大きなダメージを与え、様々な異常が体内に起こります。以下が例です。
- 乳酸性アシドーシス(Lactic Acidosis):血中に乳酸がたまること
- 急性腎不全(Acute Renal failure):腎臓が機能しなくなる
- 横紋筋融解(Rhabdomyolysis):筋肉の破壊
- 高カリウム血症(Hyperkalemia):血中に過度なカリウム
上にあげたものはすべて、熱射病によってなる可能性のあるもの。多くの場合は死に至ります。つまり、体内の熱を少しでも早く体外に放出する、もしくは冷やさなければ、命の危険があるということです。
まとめ
以上が、熱中症の種類です。
一言に熱中症と言っても、起こるメカニズムや、原因、症状が微妙に違うことがわかると思います。原因が違うということは、ケアの仕方も少しずつ変わってきます。しっかり症状を知り、原因を見極めて、最適なケアができるようになりましょう。
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