夏、毎年のように流れる熱中症のニュース。たしかに日本の夏は高温多湿のため、熱中症になりやすい環境ではあります。
しかし、しっかり対策・予防をすれば、熱中症は100%防ぐことができます。熱中症は「死」にも至ってしまうこわいもの。
トレーナーの人や、親御さん、学校の先生や部活動の顧問の先生、スポーツチームの監督やコーチはしっかり熱中症について知って、子どもたち・選手たち・周りの人を守ってあげてほしいと思います。
>>参考文献はこちら。
「National Athletic Trainers’ Association Position Statement: Exertional Heat Illnesses」
NATAが2015年に発表した熱中症についてのポジションステイトメントです。
熱が体外・体内と移動する4つの方法
熱中症になるのを防ぐために、「熱の移動」について知る必要があります。熱が体内から体外に放散される、もしくは体外から体内へ吸収する方法は、4種類あります。
1)伝導(=Conduction)
これは「モノ」を通じて熱が移動すること。
冷たい手であったかいモノを触り続けていると(ホッカイロとか)手は温かくなり、あったかい手で冷たいモノを触り続けていると(氷とか)手は冷たくなりますね。
熱は「熱いモノ」から「寒いモノ」へ移動しますからね。これは「手」と「モノ」の間で、熱の移動が起きているのです。これを「熱伝導」と言います。
上の写真は、氷のうで膝をアイシングしているところ。「膝」と「氷(=モノ)」の熱伝導により、膝が冷たくなります。
「アイシング」については、まずは「怪我の応急処置にはPRICEがベスト|適切な処置で最短の復帰を」で読んでいただくと良いかと思います。
2)対流(=Convection)
これは「液体」や「気体」を通じて熱が移動すること。
お風呂や水風呂は、液体を通じて身体が温かくなったり冷たくなったりしますね。
扇風機・エアコンやたき火は、風(=気体)を通じて温かくなったり涼しくなります。これが対流による熱移動です。ちなみにこの対流による熱移動は、特に肌に風を感じていなくても、常に起きています。肌は常に空気に触れていますからね。
「水風呂」に関してより知りたいという方は、ぜひ「運動後の疲労回復に効果的なのはお風呂?水風呂?交代浴?」や「筋肉痛にアイシングは意味ある?運動後の水風呂に浸かる効果とは?」の記事もお読みください。
3)放射・輻射(ふくしゃ)(=Radiation)
これは「赤外線」による熱移動のことです。
①と②がなにかしらを通じて(モノや液体・気体)の熱移動だったのに対し、この放射・輻射は何も通じずに熱移動が起きます。①と②に比べてちょっとわかりづらいと思うので、詳しく説明します。
地球上にあるほぼすべての0℃以上の物体は赤外線を放出している
なかなかイメージしづらいかもしれませんが、そうらしいのです。
そして人間は、自分の周りにあるあらゆる物体から、この赤外線を吸収しています。と同時に、人間も周りの物体へ赤外線を放出しています(人間も0℃以上の物体です)。
大事なのはここから。人間と周りの物体の温度を比べます。
人間の体温が周りの物体の温度よりも高ければ、赤外線による熱は、人間から物体へ移動(=人間にとっては熱の放出)。周りの物体の温度の方が人間の体温よりも高ければ、赤外線の熱は、物体から人間へ移動(=熱の吸収)。
1、2、3を簡単に表したのが、上のイラストです。
- Conduction=1) 伝導(火によって温められた「鉄の棒(=モノ)」を通じて手があつくなっている。)
- Convection=2)対流(火によって温められた「空気(=気体)」を通じて、手があつくなっている。)
- Radiation=3) 放射・輻射(「たき火」という0℃以上の物体が手よりも温度が高いため、赤外線の熱が人間へ移動して手があつくなっている。)
やはり3)が若干わかりづらいかもですが、要はどんな物体からも図のような感じで赤外線がブワァ〜って出てます。
4)発汗(=Evaporative Heat Loss)
これは、汗をかくことによって、体内の熱を気化熱によって体外へ放出することです。
4)は熱の放出の方法であり、発汗による体外から体内への熱の移動(=熱の吸収)はありません。運動中は特に、この発汗によって熱を放出することがとても重要です(詳しくはもう少し下で説明します)。
普段、どの熱移動が一番使われている?
では、普段の日常生活で、どの熱移動が1番行われているのか。
答えは、3)の「放射・輻射」です。
裸の人が、快適な温度の部屋に、安静の状態でいたとき、体内と体外の熱移動は、この放射・輻射によるものが全体の60%を占めているらしいのです。ちなみに同じ状況で、1)の伝導はたったの3%。まぁ物理的な接触が必要ですからね。2)の対流は15%。4)の発汗による熱放散は25%ということです。
ここから少し具体的に。
60%を占める3)の放射・輻射による熱移動は、周りの環境よって大きく左右されます。なにかに触れたりするわけではないため、知らないうちに(=無意識のうちに)いつも放射・輻射による熱移動が起きています。
人間の体温は約36℃ですね。皮膚の温度はもう少し低いです(30℃くらい)。冬は気温が低く、周りの物体は基本的に人間より冷たいため、放射によって人間はどんどん熱を周りに出します(=寒くなる)。
しかし、夏。周りの物体の温度が30℃を超えてくると、身体は逆にその物体から熱を吸収し始めます。周りの温度が人間より高いと、周りが「熱いモノ」で人間が「冷たいモノ」となり、熱は冷たい方へ移動してくるので。
こうなると、放射・輻射による熱の放散はできなくなります。むしろ熱を吸収して身体は更に熱くなります。
夏は、約60%も占める放射による熱移動がうまく働くなってしまうのです。
「放射」と同じように、2)の「対流」による熱移動も無意識のうちに起こっています。人間の肌と空気は常に接していますからね。そしてこの空気も、夏は30℃以上まですぐ上がりますね。空気が30℃を超えてくると、空気を通じての対流による熱移動もうまく働かず、どんどん体内に熱を吸収してしまうことになる。
そういうわけで、「気温の高い日」は②の対流と③の放射によって体内の熱を放射することはほとんどできません。単純計算で、「気温の高い日」は約75%の熱移動による熱の放射は働きません(=対流の15%と放射の60%)。ここで、4)の「発汗」による熱放散が1番の手段となります。
汗と熱移動の関係
「汗」について1つ知っておきたいこと。それは、汗をかくだけでは体内の温度は何も変わらないということ。汗をかいて、その汗が空気中に蒸発して(=気化して)初めて熱が身体から奪われるということ。
この「汗を蒸発させる」というのがポイント。そしてこの汗の蒸発に大きく関わるのが「湿度」です。
湿度が低ければ、空気中に水分をあまり含んでいないので、蒸発のスピードは早く、効果的に熱を体外へ放散することができます。しかし、湿度が高いと、空気中に水分がたっぷりあるのでなかなか汗は蒸発せず、汗は肌にとどまり、体内の熱を放散できなくなります。
- 「気温が高い日」は②の対流と③の放射がうまく働かない。
- 「湿度が高い日」は④の発汗による熱の放散がうまく働かない。
つまり「気温と湿度が高い日」は、人間の身体が持っている体内の熱を下げる能力(=熱を外へ出す能力)がかなり制限されてしまうのです(=ほぼ100%)。
だから「気温と湿度が両方高い日」が一番熱中症にかかる危険性が高いのです。
普段、知らず知らずのうちに身体が勝手に体内の熱を体外に放散してくれていて、勝手に熱が下がっていたのに、気温と湿度が高い日は、身体は勝手には熱を放散してくれないのです。
つまり!!ここからが1番大事!!!
言い換えると、気温と湿度が高い日は「意識的に」熱を下げようとしない限り、体内の熱は下がらないのです。
1)の伝導は「モノ」に触れることで熱の移動が起きます。体より冷たいモノ(氷など)を体にあてることで熱を下げます。
2)の対流も、何もしなければ体よりも空気が熱い場合は体の熱は下がりませんが、「意識的に」冷水を浴びたり(水風呂やミストを浴びる)、冷たい風を体にあてる(扇風機・うちわであおぐ)ことで、熱を下げることができます。
まとめ
今回は「熱移動」にフォーカスしました。
熱がどのように移動するのか。体内の熱をどうやって体外に放出し、体温を下げているのか。
身体の仕組みを知ることで、熱中症をどのように予防すればいいかがおのずとわかるかと思います。少しでも伝わっていれば幸いです。
【追記】熱中症のみに特化したサイト「熱中症ドットコム」の運営をはじめました。熱移動に関しては「 ヒトが持つ体温調節機能のメカニズム|熱の移動と放散で体温を下げる|熱中症ドットコム」の記事もぜひ読んでいただけたらと思います。
Comments are closed.