今回は足の裏についての記事です。
身体が人それぞれ違うように、足底の形も人それぞれ違います。足底の内側にある溝を「内側アーチ(これで「ないそくあーち」と読みます)」と呼び、この大小、もしくはこのアーチの頂点がどれくらい地面から離れているかで、平均的なものと比べて、内側アーチの大きい足底を「ハイアーチ」、小さいものを「扁平足」と呼びます。
今回はハイアーチが身体に、特に運動をする上で、どのように影響するか紹介していきます。
>>参考文献はこちらです。
「Increased plantar force and impulse in American football players with high arch compared to normal arch」(2012)
Carsonらによるハイアーチと通常の足の受ける足底部の負荷の違いをForce Plateで調べた研究です
「The Effect of Foot Structure and Range of Motion on Musculoskeletal Overuse Injuries」(1999)
Kaufmanらによる足部の形と可動域と使いすぎによる怪我の関係を調べた研究です。
「Arch structure and injury patterns in runners」(2001)
Williamsらによるランナーの足部の形と怪我のパターンを調べた研究です。
「HEIGHT OF THE FOOT LONGITUDINAL ARCH AND ANTERIOR CRUCIATE LIGAMENT INJURIES」(2014)
Cesarらによる内側アーチの高さと前十字靭帯損傷の関係を調べた研究です。
ハイアーチについて
ハイアーチとは写真のように、内側のアーチが非常に高い状態を言います。この内側アーチは足の内側の骨、踵骨、距骨、舟状骨、内側楔状骨、第一中足骨によって成り立ってます。
ちなみに足底には内側、外側、横、の3つのアーチがあり、この3つのアーチによって足底にかかる負荷を分散させています。この機能がよく「クッション」という表現で説明されているものです。
ハイアーチの原因と評価方法
それではハイアーチの原因は何でしょうか? 一番多い原因は先天的なものだと思われます。他の身体の部位と同じで、足のアーチの高さも人それぞれです。生まれつきハイアーチを持っている、ということです。
他には足底の筋肉の問題があります。筋肉の問題は前回のセーバー病の記事でも説明があったように、足底には足底筋膜というものが足の指の付け根からかかとの骨まで繋がっています。度重なる負荷や疲労によってこの足底筋膜が硬くなってしまうと、アーチが下がりにくくなり、ハイアーチの原因となります。
前回のセーバー病についての記事「踵骨骨端症・セーバー病まとめ|痛みの原因と対策・ケアの方法」はこちらからどうぞ。
この2つの原因の見分け方ですが、左右の足を比べるといいです。もし両足とも同じ高さであれば、生まれつきの可能性が高く、左右で高さが違っていれば筋肉的な原因の可能性が高いと思われます。もちろん、この見分け方は誰でも手軽にできる方法ですので、信頼性はそんなに高くはないですし、例えば両足とも筋肉的な原因でハイアーチになっている、ということも考えられます。最終的な判断は専門家に仰ぐのがベストです。
ハイアーチの評価として、レントゲンを撮ったり、舟状骨が地面からどれだけ離れているかを測ったりと様々な方法がありますが、専門的な知識もいらず、手軽に手早く調べられる方法を紹介します。
Wet Feet Test
Wet Feet Testというのですが、その名のとおり足を濡らして紙に足跡を付けるだけです。
写真のように内側アーチの形を見て、扁平足かハイアーチか手軽に調べることができます。ただ、このテストには比べられる基準というのがありませんので、あくまで自分の足底の形を知るアイデアとして使いやすいと思います。
一つ専門的な使い方を加えると、足底は体重がかかると広がります。特に横アーチが開き、内側アーチが落ち込みます。なので、椅子に座った状態と立位、もしくは歩いている状態でWet Feet Testを行うと、負荷のかかっている状態とかかっていない状態でのアーチの変化を調べることができるので、特にアスリートにとってはその人のハイアーチ、もしくは扁平足が「静的」なものか、「動的」なものかということを知ることができ、その後のアプローチに重要になってきます。
ハイアーチっていいの?悪いの?
ここまでハイアーチについて説明してきましたが、一番知りたい情報はハイアーチっていいのか悪いのか、という点だと思います。ただ、この点は一概には決め付けられないので、僕が調べた情報を紹介します。
Carsonによる研究では、ハイアーチの人は歩行時に、足のかかとの方に外側に対する力、つま先のほうに内側に対する力が通常の足に比べて強くかかるという結果が出ています。
このグラフは歩行時の足底にかかる力をForce Plateで調べたもので、青がハイアーチ、赤が通常の足を表しています。左から2つ目と右から3つ目の比較に*印が付いていますが、この印は差が統計学的に顕著であることを示しています。つまり上で説明した研究結果のことです。
ちなみに、歩行時はまず足を前に出し、踵をつけて、身体と体重が前に移動し、足底の全体が地面に付いて、最後につま先で蹴り出して次の足が出る、という動作で成り立っています。このときに足底では体重のかかる位置が変わっていて、最初に踵を付いたときには足底の外側に体重がかかり、徐々に体重が中心に移っていき、最後に蹴りだすときは足底の内側に体重がかかり母子球で蹴り出す、というふうになっています。
上記の研究では、歩行時に踵側には外側の、つま先側には内側の力がかかるという結果が出ていますので、解釈としては、ハイアーチを持っていると、歩行時にかかる足底への負荷は増えるが、負荷のかかり方自体は変化がない、ということだと思います。負荷が増えるということは足底のクッションの機能が落ちているということです。ちなみにここでは「負荷」と表現していますが、解釈によっては蹴り出すときに “より強く踏み出す” ことが可能とも受け取れます。例えば、長距離走などの種目では足底に通常以上の負荷がかかって疲れやすくなるかもしれませんが、跳躍などの種目ではより力強い踏み込みができる、とも考えられるかと思います。
他には様々な文献でハイアーチが怪我に繋がるという結果が発表されています。
Kaufmanの研究によると、ハイアーチの人は通常の足底の人に対して、足部の疲労骨折が起こるリスクが2倍あるという結果が出ています。
Williamsの研究では、ハイアーチの人は足の外側を怪我しやすく、扁平足の人は足の内側を怪我しやすいという結果が出ています。Carsonの研究を踏まえると、足を地面に着くときに外側への負荷がより強くかかるので、足の外側を損傷しやすいのも納得できます。足関節の内反捻挫のリスクが上がることも書かれていました。
最後にCesarの研究では、ハイアーチの人は膝の前十字靭帯(ACL)の損傷リスクが高まるという結果が出ています。このACLは足関節が地面に固定されているときに膝が内側に入りすぎてしまうと怪我をすることが多いです。これもCarsonの研究と関連していて、足が地面に付いているときには体重が内側にかかりますが、ハイアーチの人は通常の人よりも足の内側への負荷がより大きくかかってしまいますので、この負荷が影響してACLの怪我の発生率を上げているのだと思われます。
まとめ
ハイアーチの特徴をまとめると、
- 足底のクッション機能が落ちて負荷が増える
- 踏み込む力自体は上がる
- 足部(主に外足部)と膝の怪我が起こる危険性が増える
ということになります。
僕の経験では、ハイアーチ持ちのスポーツ選手は足底への疲れが溜まりやすいと訴えてくるケースが多い気がします。ただ、ハイアーチのせいで痛みが出て練習ができないというようなことは経験がありません。しかし、ハイアーチが原因で痛みが出て、手術を行うというケースもあるそうなので、足底に痛みがあって、ハイアーチも見られる場合は専門の医者に相談するのがいいと思います。
先天的なハイアーチの場合は、足底に疲労が溜まりすぎないようにケアをして、足の他の部位への怪我のリスクを減らす対処をするのが最善かと思います。
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