「会社の健康診断で高血圧と言われたんですけど、血圧を下げるためにはどうすれば良いですか?」といった質問を、私が普段働いている企業内フィットネスジムではよく受けます。

答えはズバリ「運動」です。しかも、血圧を下げるために、高血圧を改善・予防するために激しい運動は必要ありません。

本記事ではまず「そもそも血圧って何?」や「血圧が高いってどういうこと?」という基本知識から解説します。

そして、血圧を下げるためにやるべき運動について、運動量や頻度、強度、更に具体的なエクササイズも紹介していきます。


>>今回の記事の参考文献はこちらです。

high-blood-pressure-guideline高血圧治療ガイドライン2014|日本高血圧学会
2000年、2004年、2009年と改定され、この2014年版が最新の第4版です。151名ものメンバーが作成委員として挙げられています。科学的根拠に基づいてエビデンスレベル分けもされており、信頼できる情報だと思います。

exercise-for-blood-pressureExercise Training for Blood Pressure: A Systematic Review and Meta-analysis
アメリカ心臓協会(American Heart Association)による血圧への運動の効果を研究したメタアナリシスです。

Blood-pressure-metaHow does exercise treatment compare with antihypertensive medications? A network meta-analysis of 391 randomised controlled trials assessing exercise and medication effects on systolic blood pressure
2019年発表の、高血圧に対しての薬と運動の効果を検証したメタアナリシスです。全391の研究から導き出した結論で、かなり信頼度は高いです。

physical-activity-articlePhysical Activity and Public Health|Updated Recommendation for Adults From the American College of Sports Medicine and the American Heart Association
1995年に発表された「身体活動と健康」についてのガイドラインを、アメリカスポーツ医学会とアメリカ心臓協会がアップデートしました。

「血圧」についての基礎知識

hemomanometer

血圧を下げるためにはどうしたら良いか?ということを考えるために、まず「血圧とは何か?」を簡単に知っておきましょう。

※血圧が何なのかは知ってる!という方や、早く血圧を下げるための具体的な運動を教えてくれ!という方は、この章はスキップしてください。

血圧とは?

血圧とは、文字通り「血液の圧」のこと。具体的に言うと、「心臓が送り出す血液が血管を圧迫する力」のことを言います。

目指すべき正常な血圧=至適血圧(してきけつあつ)

至適血圧とは、将来脳卒中や心筋梗塞などを起こす危険性が最も低いとされている血圧の値のことを言います。

そしてこれは「収縮期血圧が120mmHg未満」かつ「拡張期血圧80mmHg未満」の両方を満たすことです。よく言う「上が120、下が80」というやつです。

これらの基準よりも数字が大きくなればなるほど(=血圧が高くなるほど)、血管の病気や脳卒中、心筋梗塞、慢性の腎臓病などになるリスクが高くなったり、死亡のリスクが上がってしまいます。

【「mmHg」ってなんと読む?】 これは「水銀柱(すいぎんちゅう)ミリメートル」や「ミリメートルマーキュリー」と読みます。ですが、血圧を言うときはこの単位は言わずに数字のみを言うことが多いです。

収縮期血圧と拡張期血圧とは?

心臓がドクンと言ったとき、心臓はキュッと小さく縮まっています。心臓も筋肉でできているので、力を発揮するときは他の筋肉と同じように収縮します。

心臓が収縮して力を発揮すると、血液が全身に送られます。心臓から血液が勢い良く飛び出した時の、一番血管を圧迫する瞬間の血圧のことを「収縮期血圧」と言います。

筋肉は収縮したら、次は弛緩(=ゆるむ)しますね? 心臓がリラックスした状態の時は、血液が血管を圧迫する力も弱くなります。その弱くなっている時の血圧を「拡張期血圧」と言います。

先ほども言いましたが「上が120、下が80」といった感じで言う場合、「上=収縮期血圧」で、「下=拡張期血圧」のことを言っています。

高血圧とは?

blood-pressure-chart

それでは、高血圧とはどれくらいの値のことを言うのでしょうか?

日本だけでなく世界中で、「高血圧」は「収縮期血圧が140mmHg以上、かつ、拡張期血圧が90mmHg以上」であることを言います。

また、上の表を見ていただくとわかりますが、正常な血圧の値にも範囲があり、高血圧の中でも範囲があります。上記しましたが、1番の理想は至適血圧です。

表で言うと、至適血圧よりも下の方の数値になればなるほど、血管や心臓への負担が大きくなるため、心血管系の病気になるリスクが上がることが、多くの研究によって明らかにされています。

さらに、上の表で言う「正常域血圧」の範囲であったとしても、至適血圧ではなく正常血圧や正常高値血圧に当てはまる人は、近い将来高血圧になってしまう確率が高いこともわかっています。

もし収縮期血圧が133で拡張期血圧が81など、それぞれが違う分類になった場合は、高い方の分類として考えます。

家で測定した血圧の場合は「135/85」が高血圧の基準となる

日本高血圧学会のガイドラインによると、病院や健康診断で測定された血圧の値は、家で自分で測定して出た値よりも高く出る傾向にあるようです。

よって、家で自分で測定した値が「収縮期血圧が135以上、かつ拡張期血圧が85以上」である場合は、高血圧である可能性が非常に高い、と示しています。

通常、朝起きてすぐ測定する血圧は比較的高めの数値が出て、寝る直前に測定する血圧は低めの数値が出ます。1日に何度か測定して、平均を出すことで自分の正確な血圧を知りましょう。

血圧を下げるためには「運動」です

jogging-morning

高血圧の状態が続くと、脳卒中をはじめとした心血管系の病気になるリスクがとても高くなります。よって、血圧を下げるための治療を行うことで、それらの病気の発症や進展を防ぐことができます。

高血圧の人が、収縮期血圧を10mmHg、もしくは拡張期血圧を5mmHg低下させることができるだけで、心血管系の病気になるリスクがかなり減少します。

高血圧の治療としては、病院で処方される薬の服用が基本になると思いますが、「生活習慣の改善」というのが、血圧を下げるためにとても重要になります。

日本高血圧学会も、原則すべての高血圧患者に生活習慣の改善について教育・指導を行う、と明言しています。そして、生活習慣の改善として有効な手段の1つが「運動」です。

2019年発表のメタアナリシスには「心血管系の病気の対策・予防に『運動』は、争う余地のないほど明白なメリットがある」と断言しています。

アメリカ心臓協会のメタアナリシスによると、「持久系トレーニング(=有酸素運動)」「レジスタンストレーニング(=筋トレ)」もしくは「この両方を組み合わせたトレーニング」、このすべてにおいて、収縮期血圧と拡張期血圧ともに下げる効果があった、と報告しています。

よって、すでに高血圧の方、少しでも血圧を下げたいという方は、迷わず「運動」を生活の中に取り入れましょう。

日本高血圧学会のガイドラインによれば、生活習慣の予防・改善には運動の他に、「塩分の摂取を減らす(1日6g未満)」「食生活の改善(野菜・果物の摂取を増やし、飽和脂肪酸の摂取を控える)」「減量(BMIを25未満にする)」「飲酒の制限」「禁煙」が挙げられています。

1)血圧を下げるために「有酸素運動」は確実に効果あり

高血圧の改善・予防への運動の効果の研究で、一番多く研究されているのが「有酸素運動」です。

アメリカ心臓協会のメタアナリシスでは、「筋トレのみ」と「有酸素運動のみ」を比較すると、有酸素運動を行った方が、高血圧症を持つ人の血圧をより下げることができた、と結論づけています。

日本高血圧学会のガイドラインにも、有酸素運動による血圧の低下は多くの研究によって証明されている、と断言しています。

よって、現在全く運動習慣がない方は、まずは有酸素運動から始めると良いでしょう。有酸素運動というと「ジョギング」のような走る系が浮かぶかもしれませんが、「ウォーキング」や「早歩き」で充分です。好きな人は「水泳」や「自転車」も良いですね。

2)有酸素運動に「筋トレ」も追加で更に血圧は下がります

2019年発表のメタアナリシスでは、有酸素運動と筋トレを組み合わせたほうが、有酸素運動のみや筋トレのみよりも高血圧の改善効果が高かった、と示しています。

高血圧の人が、有酸素運動と筋トレを組み合わせた運動を習慣化することで、血圧は「約9mmHg」も低下する、という研究結果が出ています。9も下がるってかなりすごいです。

3)運動は「1回の長さ」よりも「習慣化」で血圧は下がる

physical-exercise

血圧を下げるためには「運動を習慣にする」ことがとても大切です。つまり、1日60分の運動を週1〜2回やるよりも、1日15〜20分の運動を週5日〜毎日行うほうが、結果的に血圧を下げるためには効果的です。

また、1日の運動時間は「連続」でなくても「分割」でも効果があることがわかっています。

アメリカスポーツ医学会とアメリカ心臓協会の共同声明によれば、「週5日、少なくとも10分以上継続した運動を1日で合計して30分以上になれば良い」と示しています。

つまり、30分連続して運動をしなくてもよくて、10分の運動を1日の中で3回行えば、それは「1日30分運動した」ことになります。

「通勤」のときに歩いている時間や、買い物で自転車でスーパーに行く時間など、運動のための時間をわざわざ作らなくても、日常生活の中で高血圧を下げるための時間はつくることができます。

ぜひ「細切れ」で良いので、ちょっとずつ生活の中に「運動」を取り入れてみてください(具体的な運動メニュー例は下記)。

4)低強度よりも中〜高強度がベター

Borg Scale(ボルグ・スケール)
20
19非常にキツイ(very, very hard)
18
17かなりキツイ(very hard)
16
15キツイ(hard)
14
13ややキツイ(somewhat hard)
12
11楽である(fairly light)
10
9かなり楽である(very light)
8
7非常に楽である(very, very light)
6

アスレティックトレーナーに必要な検査・測定の方法を参考に筆者作成

1回の有酸素運動の時間の長さは短めでも良い、というお話をしましたが、強度に関していうと、多少キツめの方が血圧を下げる効果はより高いです。

「運動の強度」を主観的に考える指標として「Borg Scale(ボルグ・スケール)」がよく用いられます。上の表の数字のことを「自覚的運動強度(=RPE:Rated of Perceived Exertion)」と呼び、運動の強度を「数字」と「自分が感じるキツさ」で表しています。

血圧を効果的に下げるための運動の強度は、ボルグスケールで言う「ややキツい」あたりが推奨されています。

これよりもキツい強度で運動を行うことは、高血圧の人は運動中に血圧が上がりすぎてしまう危険性があるため、すでに高血圧持ちの方は、医師と相談しながら強度を設定しましょう。

【なぜ数字が6〜20なのか?】この自覚的運動強度の数字は、10倍するとだいたい心拍数になるようになっています。ですが年齢によって変わるので、あまり心拍数のことは考えず、あくまで数字と主観的なキツさを用いてボルグスケールは使いましょう。

5)血圧を下げるための具体的な運動例

2019年発表のメタアナリシスでは、高血圧改善・予防のための具体的な運動量の指標として、以下2つを推奨しています。

  • 週合計150分以上(週2回以上)の中強度の有酸素運動と筋トレ
  • 週合計75分以上(週2回以上)の高強度の有酸素運動と筋トレ

具体的にどんな運動がオススメなのかをここから紹介します。

【中強度有酸素運動】早歩きウォーキング

fast-walking

ウォーキングはいつでもどこでもできます。ただ1つ意識したいのが「ちょっとだけ早歩き」でウォーキングをするということ。

先ほど「強度」について解説しましたが、高血圧の改善・予防として血圧を下げるためには「ややきつい」くらいの強度で運動する必要があります。

よって、通勤中でも、買い物中でも、運動公園でウォーキングするときでも、いつもの歩くペースよりも少し早歩きで行うことで、立派な運動になります。

【中強度有酸素運動】エアロバイク

aerobike

どうせ運動するならジムに行きたい!という方もいるでしょう。もちろんそれでもOKです。

ジムでは「エアロバイク」が手軽でいいですね。筋トレ前のウォーミングアップとしてバイクを「最低10分」「ややきつい」の強度で漕ぎましょう。

ジムには「トレッドミル(ルームランナー)」や「クロストレーナー」なんかもあるので、そちらでももちろん良いです。自分の好きなマシンを使ってください。

【高強度有酸素運動】ジョギング・水泳

swimming

少し強度を上げたいなと思ったら「ジョギング」ですね。泳ぐのが好きな人は「水泳」もすごく良い有酸素運動です。最近のジムにはプールがあるところも多いですね。

泳がなくても「プールを歩く」というのも立派な有酸素運動です。「ややきつい」くらいのスピードで一生懸命歩きましょう。

【筋トレ①】スクワット

body-squat

血圧を下げるために行う筋トレで鍛えるべきは「大きい筋肉」です。そして、大きい筋肉の代表は「脚」や「お尻」といった「下半身」です。

下半身を鍛える筋トレといえば「スクワット」です。特に重りなどを持たなくても良いので、最低限以下3つの点に注意してやってみましょう。

  • 足の裏(つま先〜かかと)が地面から離れないようにする
  • 膝があまり前に出ないように、お尻を後ろに突き出すように行う
  • 背中を丸めずにまっすぐキープ

慣れてきたら、両手に500mlのペットボトルを持ってスクワットしたり、ジムでダンベルを持って行うのも良いですね。

より詳しく正しいスクワットのやり方を知りたい方は「正しいスクワットのやり方を徹底分析|確認すべき12のポイント」の記事をご覧ください。

【筋トレ②】お尻を鍛えるエクササイズ

スクワットをやっておけば間違いないですが、他に下半身トレーニングを行うとしたら「お尻」を鍛えましょう。

下半身の筋肉でも大きくて強い筋肉であるとともに、腰痛の改善・予防にも効果があります。

自宅でも簡単にできるのは「グルーツブリッジ(ヒップリフト)」です。

  1. 仰向けになり、両膝を立てて、足は肩幅
  2. かかとでしっかり床を押してお尻を持ち上げる
  3. 腰は反らさないように注意する

1秒でお尻を持ち上げ、1秒そこでキープしてお尻に力を入れて、1秒でお尻を下ろす、くらいのテンポで10〜20回くらいやりましょう。

また、お尻を鍛えるツールとしてかなりおすすめなのが「ミニバンド」です。1つ持っていれば、自宅でかなり効果的にお尻を鍛えることができます。詳しくは「ミニバンドトレーニングおすすめ10選【臀筋・体幹・インナーマッスル】」をぜひお読みください。

【筋トレ③】腕立て伏せ

pushup-ski-area

上半身の大きい筋肉といえば「胸」「背中」「肩」「腕」です。腕立て伏せはこの中でも「胸」や「腕」を自宅で鍛えることができる効果的なトレーニングです。

女性は膝を床についた状態で行ったり、壁やベッドなどに手をついて行えばできます。ぜひチャレンジしてみてください。

腕立て伏せの様々なやり方は「7種類の効果的な腕立て伏せのやり方【初心者から上級者まで】」で紹介しています。

【筋トレ④】背中を鍛えるトレーニング

自宅で背中を鍛えるのはなかなか難しかったりしますが、背中は絶対鍛えたい部位の1つです。

ジムに行ける方は「ダンベルロウ」がおすすめです。

  1. ダンベルを1つ用意し、ベンチに手(肩の真下)と膝(股関節の真下)をつく
  2. 逆足は膝と平行な場所に置く
  3. ダンベルを持ち、左右の肩の高さを同じにしたポジションからスタート
  4. 肩の高さをあまり変えずに、肘を引き上げるようにダンベルを持ち上げる

家で背中を鍛えたい方は「W(ダブリュー)」がおすすめです。下動画はチューブを使っていますが、チューブ無しで同じ動きをしても充分背中のエクササイズになります。

  1. 足は肩幅。お尻を少し後ろに引いて上半身は前傾に
  2. 肩甲骨を背骨側に寄せるように、肘を後ろに引いて、体でアルファベットの「W」を作る

20回くらいやるだけで、背中に刺激が入り、姿勢が良くなった感じがします。肩こりにお悩みの方にもおすすめのエクササイズなのでぜひやってみてください。

まとめ

血圧についての基礎知識と、血圧を下げるために行うべき運動について解説してきました。

忘れてはいけないのは、第一は「ドクターの指示に従う」ということ。運動中は血圧が上がりやすいので、どんな運動ならしても良いか、ドクターに必ず確認しましょう。

運動しても大丈夫と言われた方は、血圧を下げるために、絶対に運動を習慣にするべきです。

自分の血圧を下げるために、もしくは周りの誰かの高血圧を改善・予防するために、役立てていただければ幸いです。

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