運動やスポーツをしている方であれば、一度は「アイシング」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか?
アイシング(=氷で筋肉などを冷やすこと)は、ケガをこれ以上悪化させないようにしたり、筋肉痛を最小限にとどめるためなど、運動後に行うことでとても効果のあるケア・トリートメントの一つと考えられています。
これは、アイシングをすることで筋肉の温度が下がり、代謝が下がるため、余計なエネルギーを使わずに済んだり、筋肉内の毛細血管の損傷を最小限に防ぐ効果があるためです。
大学やスポーツ現場ではよく、練習後、アイスバッグや氷のうをバンテージやフレキシラップでアイシングしたい部位に巻いて、そのまま家に帰ったり、ご飯を食べに行ったりする人が多いです。
しかしこれをよく考えてみると、アイシングをした部位をアイシング中に動かしていることになりますね。走ったり跳んだりというほどの激しい動きではないものの、「歩く」という行為も立派な運動ですからね。
では果たして、アイシングしている部位をアイシング中も動かし続けていたら(=アイシングしている筋肉を使い続けていたら)、その筋肉はしっかり冷やされるのでしょうか?
>>参考にした論文はこちら。
「Local Ice-Bag Application and Triceps Surae Muscle Temperature During Treadmill Walking」
ふくらはぎをアイシングしながらトレッドミルでウォーキングをしたとき、ふくらはぎの筋肉の温度はどれくらい変化するか、を研究したものです。
アイシングの効果の検証方法
今回の参考文献である研究では、2つのグループに分かれて研究が行われました。アイシングの部位は「ふくらはぎ」です。
【第1グループ】アイシングのみ(=ベッドでじっとしている)
【第2グループ】アイシングしながらウォーキング(=アイシングをしながらトレッドミルで30分間のウォーキング)
これら2つのグループに分かれて、 被験者全員のアイシングによるふくらはぎの筋肉の温度変化が測定されました。
これが、第1グループのアイシングのみ行なったグループの実験中の様子。全く動かずうつ伏せになって、ただアイシングをしています。
そしてこれが、第2グループのアイシングをしながらウォーキングをするグループの様子。アイシングをしている部位は同じですが、アイシングをしながらウォーキングをし続けます。
温度を測る15分前からベッドでうつ伏せに横になり、筋肉の温度を一定に保った状態にしてから、アイスバッグをバンテージでふくらはぎに巻いて、開始です。
温度は「開始直前」「アイシングを始めて10分後」「20分後」「30分後」に測定されました。
アイシングをしながら運動した時の効果は?
アイシングをしながら運動をすると、アイシングをされている筋肉はしっかりと温度が下がるのか、という検証を行なった研究結果が、上の表になります。
第1グループは、うつ伏せになって寝たまま30分間アイシングをしました。第2グループは、アイシングの氷をふくらはぎにつけたまま30分間ウォーキングをしました。
アイシング中、もしくはアイシングをしながらウォーキング中、アイシングを開始した直後、10分後、20分後、30分後にふくらはぎの筋肉の温度が測定されました。
【第1グループ】アイシングのみのグループ
上の表の体温の変化を見ればわかりますが、アイシング中じっとしていたグループは、時間が経つごとに筋肉内の温度はどんどん下がっていますね。
- アイシング開始直後:34.24℃
- 10分後:32.61℃
- 20分後:30.25℃
- 30分後:28.49℃
【第2グループ】アイシングをしながらウォーキングをしたグループ
それに対して、アイシングをしながらウォーキングをしたグループは、ほぼ温度に変化がありません。
- アイシング開始直後:34.21℃
- 10分後:34.15℃
- 20分後:34.11℃
- 30分後:33.87℃
この研究結果から、氷を肌につけたままにしておいても、アイシングをしている筋肉を動かし続けていると、たとえ表面的には(=肌は)冷えていて筋肉を冷やした感じがしても、実際には筋肉内は全然冷やされていない、ということがわかります。
よって、アイシング中に動いたり、その筋肉を使うと、アイシングの効果を全然引き起こすことができない、ということになります。要は、意味がないのです。
アイシングをしながら動くと効果がなくなる
なぜ運動を続けると、氷を筋肉にくっつけているのにも関わらず冷えないのでしょうか?
活動中の筋肉は、熱を生み出します(ATP【アデノシン三リン酸】を使ったり作ったりするために起こる化学反応の副産物として)。
この研究をしたグループは、エクササイズ中の筋肉の温度変化についても研究をしているのですが、その研究によれば、15分のエクササイズで、筋肉の温度は約2.2℃上がったと報告されています。
アイシングは、これとは真逆で、熱を奪い取る(=伝導【Conduction】)ために行うのですが、筋肉を動かしたり運動をすることは熱を生み出すため、アイシングとは真逆の行為を行なっていることになります。
つまり、エクササイズをすることと、アイシングをすることは、温度変化の効果を相殺するのです。
アイシングは、筋肉内がしっかり冷えることで、身体にとっての様々な利益(ケガが最小限におさまる、代謝が減る、エネルギーの節約、など)を得ることができます。
筋肉の温度を冷やすことができなければ、いくらその表層にある肌を冷やしても全く意味がないのです(表層の肌を冷やすために行うアイシングであれば問題ない)。
よって、筋肉内の温度を最大限下げるためにも、アイシング中はじっとしていることをオススメします。せっかく身体のケアを行なっているのに、何も効果を得ることができないのはもったいないですね。
モノなどを肌に当てて熱の効果を行う「伝導」について、詳しくは「体内の熱はどのように体外に移動する?体温を下げる身体のメカニズム」の記事で詳しく解説しているので、ぜひこちらもお読みください。
まとめ
アイシングを行いながら運動をすると筋肉の温度は下がるのか?という研究について解説しました。結果は「アイシングをしている筋肉を動かすと、熱を奪う行為と熱を生み出す行為で相殺されて、温度はほとんど下がらない」となりました。
運動後のたった20〜30分だけ安静にしながらアイシングをすることで、その効果を最大限に得ることができます。ぜひアイシング中は、本を読んだり、宿題をやったりなどをして、アイシングしている部位をなるべく使わないようにしましょう。
Comments are closed.