「オタワアンクルルール」。別に呪文ではありません。笑
Ottawa Ankle Ruleとは、選手が足首を捻挫した時などに、トレーナーがスポーツ現場で骨折の有無を調べるための評価方法です。
このオタワアンクルルールを知っておくと、選手をすぐ病院(整形外科)に連れて行って診てもらった方が良いのか、それともとりあえず応急処置をして様子を見ても大丈夫そうか、という判断の基準の1つとなります。
今回の記事では、このオタワアンクルルールの使い方を解説します。
>>今回の参考論文はこちらです。
- Accuracy of Ottawa ankle rules to exclude fractures of the ankle and mid-foot: systematic review
Ottawa Ankle Rulesに関する27本の論文をまとめたSystematic Review(システマティックレビュー)という論文です。
足首の捻挫をしてしまったら?
足首の捻挫は、スポーツ現場で最も多く起こるケガと言われています。
足首をひねると、痛みが出て、腫れて、時には歩くのも大変になります。病院に行ってお医者さんにみてもらうと、ほぼ必ずレントゲンをとることになりますが、これは骨折をしているかしてないかを確認するためです。
「骨折」と「捻挫」では、その後の治療プランが変わってきますからね。
私が今回参考にした研究では、「足首の捻挫で病院に行き、レントゲンを撮った人の約80%以上に骨折は見られず、約15%のみの人に骨折が見つかった」という報告をしています。
これは極端なことを言うと、骨折が見られなかった人には、結果的にレントゲンを撮る必要はなかった、ということです。
もちろん、レントゲンを撮って骨折がしていないということがはっきり分かれば選手もトレーナーも安心して処置・リハビリを始めることができるので、レントゲンを撮って骨折の有無を確認することはとても大事です。
しかし、レントゲンを撮ることはお金がかかります。もし、トレーナーや医者がレントゲンを撮る前の段階の評価で骨折をしていないことがわかれば、医療費がかなり削減できる、ということになります。
Ottawa Ankle Rulesはもともと、レントゲンを撮る必要性を減らして、医療費を削減することを目的に作られた評価法なのです。
足首の捻挫については「足首をひねった!足関節捻挫をしたときの処置・予防方法とは?」で詳しく解説しています。またトレーナー向けには、足関節の評価法について「足関節捻挫のスペシャルテスト5選|内反捻挫・遠位脛腓靭帯編」の記事で書いています。ぜひこちらも読んでみてください。
Ottawa Ankle Rule(オタワアンクルルール)の使い方
それでは、具体的にOttawa Ankle Rulesとはどのような評価法なのかを紹介します。
全部で5つのポイントを評価し、どれか1つでもポジティブ(=痛みがある、もしくはできない)だったらレントゲンをとるべきである、ということを示します。
5つのポイントとはコチラ。
- 外側のくるぶしの後ろ下側6センチの痛み(=圧痛)
- 内側のくるぶしの後ろ下側6センチの痛み(=圧痛)
- 第5中足骨粗面の痛み(=圧痛)
- 舟状骨の痛み(=圧痛)
- 怪我をした直後にその足に体重をかけることができない/歩けない
さっきの逆を言うと、この5つのポイントが全部ネガティブ(=痛みがない、もしくは荷重できる)であれば、骨折をしている可能性は極めて低いだろう、ということを示します。
このOttawa Ankle Rulesのすごいところは、その正確性です。
今回の参考論文であるsystematic reviewでは27本の研究をまとめられていますが、その中で扱われた患者は15,581人。全員にこのOttawa Ankle Rulesを使って評価をしたところ、Ottawa Ankle Rulesの5つのポイントが全部ネガティブだったのにもかかわらず骨折をしていた、というのはわずか47人 (0.3%) でした。
【専門家向け】Sensitivity(感度)とSpecificity(特異度)
ここで説明したいのが、Sensitivity(=感度)とSpecificity(=特異度)というものです。これは評価法やテストの統計的な尺度のことを指します。ちょっと分かりづらいですね。もう少し詳しく説明します。
Sensitivity = “True Positive Rate”
これは例えば「あなたはガンです」と言われた人が、本当にガンである確率のこと。
Specificity = “True Negative Rate”
これは「あなたはガンではありません」と言われた人が、本当にガンではない確率のこと。
アスレティックトレーナーが使う様々な評価法も、本当にその評価法は正確に評価できるのだろうか、ということが研究されていて、評価法それぞれの感度や特異度が明らかになっています。そして色々見ていくと、ある評価法は感度が高かったり、またある評価法は特異度の方が高かったりします。
これをどのように考えればいいかというと、以下の通りになります。
- 感度が高いテスト=ネガティブ(=テストをしても症状が確認できない)なら、除外
- 特異度が高いテスト=ポジティブ(=テストをしたら症状が確認できた)なら、有力
では、オタワアンクルルールはどうなのでしょうか。
- 感度=97.6%
- 特異度=31.5%
オタワアンクルルールは、かなり高い感度を持つ評価方法だということがわかります。
つまり、オタワアンクルルールを使って評価をした時に痛みや症状が出なかった(=ネガティブだった)ら、骨折をしている可能性がかなり低い(=除外)、ということを示します。
これに対して感度は30%とあまり高くありません。つまり、オタワアンクルルールをやって痛みや症状が確認できた(=ポジティブだった)としても、骨折をしているとはあまり断定できないだろう、ということを示します。
【追記:6/18/2017】「感度と特異度」については、「膝のスペシャルテスト|前十字靭帯(ACL)編」でも改めて解説しました。今回の記事で分かりにくかったという方は、ぜひこちらの記事もお読みください。
まとめ
トレーナーの方に1つだけお伝えしたいのは、いくらオタワアンクルルールが非常に有用な評価法だからといって、ある選手がケガをしてすぐに足首がパンパンに腫れたにもかかわらず、オタワアンクルルールの症状が1つも出なかったから病院に行かせる必要はない、と考えることは危険です。
今回の参考文献でも示されていますが、トレーナーの評価スキルや経験、もしくは患者がどのように「痛み」を表現するか、がオタワアンクルルールの正確さに大きく左右します。
そのため、オタワアンクルルールを信頼しすぎたり、自分の評価スキルを過信しすぎず、1つの評価法だけで判断することは避けましょう。あくまでも数ある評価法の1つとして使い、様々な評価をしたうえで、その後のケアやプランを考えていくべきです。
トレーナーとして、少しでも(もしかしたら骨折してるかもな)と思ったら、しっかりドクターに診てもらい、判断を仰ぐことが大切です。
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