Pocket Concussion Recognition ToolTM(ポケット脳振盪認識ツール)は、2012年11月にスイスのチューリッヒで行われた「スポーツにおける脳振盪」についての国際会議で、世界中の脳振盪のエキスパートによって作られました。
これは、医療従事者ではない人でもわかりやすいように作られた、脳振盪の疑いのある人を見極めるためのツールです。
今現在トレーナーとして活動している方はもちろん、運動指導者(特に脳振盪が起こる可能性のあるスポーツの指導者)や両親は、ぜひ脳振盪の症状について知っておいて欲しいと思います。
>>PDFで欲しい人はこちらのリンクからどうぞ。
- Pocket Concussion Recognition ToolTM
今回は、このポケット脳振盪認識ツールを日本語に訳しながら、どのような人は脳振盪が疑われるのかを説明していきます。
RECOGNIZE & REMOVE(認識して、やめさせる)
これから説明するものの中のどれか1つでも当てはまれば、その人は脳振盪の疑いがあります。
Visible clues of suspected concussion(脳振盪を疑う明らかな手がかり)
今から挙げるものが1つでも当てはまったら、その人は脳振盪の可能性があります。
- 意識消失や無反応(Loss of consciousness or responsiveness)
- 地面の上で動かない / 起き上がるのがゆっくり(Lying motionless on ground / Slow to get up)
- 歩くのが不安定 / バランスに問題あり or 転ぶ / 協調が欠けている(Unsteady on feet / Balance problems or falling over / Incoordination)
- 頭をグイッとつかむ or つかもうとする(Grabbing / Clutching of head)
- ぼーっとしている / 何もないところをうつろに見つめる(Dazed, blank or vacant look)
- 混乱している / 起きたことに気づいていない(Confused / Not aware of plays or events)
指導者やトレーナー、周りのスタッフは、普段の選手たちの様子をしっかりと知っておく必要があります。その上で、(あいつなんか変じゃない?)と感じたら、すぐに駆けつけて、声をかけるようにしましょう。
Signs and symptoms of suspected concussion(脳振盪が疑われる兆候・症状)
以下にある兆候・症状が1つでも当てはまる場合、脳振盪が疑われます。
- 意識喪失
- 頭痛
- 発作・けいれん
- めまい
- バランスの問題
- 混乱している
- 吐き気・嘔吐
- すべてがゆっくりに感じる
- 眠気
- 頭が圧迫されているように感じる
- 感情的になる・情緒不安定
- 物がかすんで見える
- イライラする
- 光 (太陽や蛍光灯) に過敏 / 気分が悪くなる
- 悲しくなる
- 記憶がなくなる
- すぐ疲れる
- 霧の中にいるような感覚になる
- 不安・心配になる
- 首の痛み
- 理由はわからないけどなんか変な感じ
- 騒音に過敏 / 気分が悪くなる
- 思い出すことができない
- 集中できない
トレーナーや運動指導者が一番やるべき大切なことは、これらの症状を選手自身にしっかりと伝えること(=教育)です。
周りで見て、ちょっと様子がおかしい選手がいたら声をかけるということはもちろん大切なのですが、選手が自ら「ちょっと調子悪いです」「なんか変です」と言えることです。
選手が脳振盪の症状を知っていて、脳振盪はとても危ない怪我であることをしっかりと知っていれば、症状が悪化することを未然に防ぐことができます。
プロのトレーナーであればこれらの症状は覚える必要があるかもしれませんが、運動指導者や両親は別に覚える必要はありません。このツールをぜひダウンロードして、印刷して、練習の時に持ち歩いたり、家においておいてたまに見てください。たまに見ておくと、なんとなく頭に入ります。
Memory function(記憶の機能)
以下の質問に1つでも正確に答えることができなかったら、脳振盪が疑われます。
- 「ここはどこの競技場ですか?」 What venue are we at today?
- 「今は前半後半どっちですか?」 Which half is it now?
- 「最後に得点したのは誰ですか?」 Who scored last in this game?
- 「最後の対戦相手は?」 What team did you play last game?
- 「最後の試合は勝ちましたか?」 Did your team win the last game?
スポーツによって、質問は変えても良いです。大事なのは、普通の状態であれば誰でも絶対に答えられるような質問(ちょっと前の出来事の記憶を試すようなもの)をすることです。
脳振盪が疑われるすべてのアスリート・選手は、すぐに練習・プレーから外れるべきです。また、その選手は、専門家にしっかりと診てもらうまでは運動をするべきではありません。
脳振盪が疑われる選手は必ず誰かと一緒に行動し、自動車の運転もするべきではありません。
脳振盪が疑われる選手が出たら、たとえすぐに症状が回復したとしても、必ず医師に診断を受け、どれくらい休むべきか、いつから運動を開始するべきか、などの指示を受けましょう。
RED FLAGS(危険信号)
激しい衝突プレーやひどく頭を打った後、もし以下に挙げるもののどれかが選手から報告された場合、その選手はすぐに、そして安全にフィールドから出ましょう(プレーをやめましょう)。もしそこに医師がいない場合は、すぐに診てもらうために救急車を呼ぶことも考えましょう。
- 首の痛みを訴えている
- 意識がなくなっていっている
- 混乱や興奮状態がひどくなっている
- 頭痛がどんどんひどくなっている
- 嘔吐を繰り返している
- 異常な挙動の変化
- 発作やけいれん
- 複視 (物が二重に見えること)
- 手足の筋力の低下 / 燃えるような熱さ・チクチクピリピリした痛みを感じる
ここに挙げた症状は、最初に挙げた「兆候・症状」よりも重度なものです。すぐに運動はやめさせて、病院に行きましょう。
心に留めておくべきこと
- いつどんな時でも、CPR・救急処置(安全確認、反応・応答の確認、気道確保、呼吸、循環の確認)が最優先されるべき
- 呼吸のサポートのときを除いて、フィールドに倒れている選手を無理に動かそうとしない
- トレーニングを積んでいない限り、ヘルメットはとらない(アメフトなど)
CPR(=心肺蘇生法)については、「心肺蘇生法の手順を1から徹底解説|大切な人を救えるように」で読むことができます。ぜひこちらもお読みください。
まとめ
専門家(医師やアスレティックトレーナーなど)が練習や試合の場にいれば安心ですが、もしいない場合、監督やコーチ・部活動の顧問の先生・指導者の人が、脳振盪が起きた選手への救急処置にあたる最初の人(=ファーストレスポンダー)になる可能性が高いです。
どんな兆候や症状があらわれたら脳振盪を疑うべきなのか。スポーツをする子ども・選手たちを支える人・周りの人たちはしっかりと心に留め、すぐに選手の異常に気がつけるようにしましょう。
Comments are closed.