多くのスポーツにおいて「速く走る」「素早く動く」といった能力は必須です。

陸上のトラック競技は、誰よりも速くゴールテープを切る必要があります。テニスではより素早くボールに追いつく必要があります。サッカーやアメフトでは、ボールを奪いに来る相手のマークを素早く振り切る必要があります。

そんな能力を鍛える方法として有名なのが「SAQトレーニング®」です。

SAQとは「Speed:スピード」「Agility:アジリティ」「Quickness:クイックネス」の頭文字を取ったもの。これらの能力を鍛えることは、多くのスポーツにおいてパフォーマンスをアップさせることに直結します。

今回の記事では、これら3つの能力の違いについてお伝えしながら、それぞれどのようなトレーニングを行えばその能力がアップするのかをお伝えします。


>>今回の参考資料はこちらです。

 

  1. NASM Essentials of Sports Performance Training
    NASM-PES(Performance Enhancement Specialist)の資格のための教科書です。ストレングス/トレーニングに関することが網羅された良本です。
  2. Orthopedic and Athletic Injury Examination Handbook
    アスレティックトレーナーが現場で使うスペシャルテストが網羅された教科書です。

スピード=最高速度

speed-training

日本SAQ協会のスピードの定義は「重心移動の速さ」となっています。簡単に言うと「最高速度」のこと。

最高時速が180kmの車と200kmの車だったら、200kmの車のほうが「スピードが速い」と言えます。

多くのスポーツでは「走る」という動作を行います。そして、走るという動作を行うスポーツのほとんどは「より速い方が良い」です。

よって、スポーツパフォーマンスをより高めるために「スピードを速くする」ことは必須なのです。

スピードを高めるには「ストライド」と「ピッチ」が鍵

スピードという能力を構成しているのは「ストライド(=歩幅)」と「ピッチ(=1歩にかかる時間の速さ)」です。

つまり、ストライドをできるだけ長くしながら、ピッチもより速くすることができれば、最高速度は上がります。言うのは簡単で、でもそんな簡単にはできませんが、そういうことです。

普通は、ストライドを伸ばすとピッチは遅くなり、ピッチを速くするとストライドは短くなります。

いきなりどちらも向上させようとすると必ずそうなるので、まずは「ストライドを伸ばすトレーニング」と「ピッチを速くするトレーニング」を別々に行い、徐々に統合させていきます。

ストライドを伸ばすには「地面を強く押す力」が必須

stride-length

ストライドを伸ばすためには、脚で地面を強く押す必要があります

地面を強く押すことで、その反作用で大きい力を逆に脚・身体が受け取り、遠くに進む(=ストライドを伸ばす)ことができます。

「地面を強く押す力」を鍛えるには、スクワットやランジといった筋力トレーニングを行ったり、ジャンプトレーニング(プライオメトリクス)を行うことが効果的です。

地面を強く押す力がないのに無理やりストライドを伸ばそうとすることは、ただ無駄にエネルギーを使っていることになるのでスピードはむしろ落ちます。

「地面を押す」という基礎的な能力を上げつつ、その力を走る動作の中でうまく使えるようにするトレーニングを行うことで、徐々にストライドが伸びていきます。

スクワットをやってみよう!という方は、ぜひ「正しいスクワットのやり方を徹底分析|確認すべき12のポイント」の記事を読んでから行ってみて下さい。

ストレッチポール公式ブログにて、ジャンプトレーニングとプライオメトリクスについての記事を書いております。「ジャンプトレーニング・ライバルよりも高く跳ぶための練習法10選」「プライオメトリクストレーニングの概念と方法【ATCが解説】」もぜひ読んでみて下さい。

理想のストライドの長さは「脚の長さの2.3〜2.5倍」

研究によって、最高速度を得るための理想のストライドの長さは「自分の脚の長さの2.3〜2.5倍」ということが示されています。人によって微妙に変わってはきますが、トレーニングを行う際の目安として利用しましょう。

脚の長さの測り方は以下の通り。

  1. 骨盤の前側にある出っ張った骨(上前腸骨棘)にメジャーの片方を合わせる
  2. メジャーのもう一方を内くるぶしに合わせる

左右やってみましょう。だいたい同じ長さのはずなので、その長さを2.3〜2.5倍して出た長さが「あなたがダッシュするときのストライドの目安」になります。

もし左右で「1〜2cm」の違いがある場合は、骨盤周りの筋肉がアンバランスになっている可能性があり、怪我につながる可能性もあるので、トレーナーなどに診てもらうことをオススメします。

スピードを高めるトレーニング3選

「地面を押す力」を鍛える筋トレを行うべきということは上記しました。下半身の筋力を高めつつ、実際に走る動作の中で地面をしっかりと押すスキルを身につける必要があります。

私がオススメするスピードを鍛えるトレーニングを3つ紹介します。

1)ウォールドリル

ダッシュをしている最中の姿勢で、地面をしっかりと押す動きを身につけるドリルです。

  1. 両手を壁に付き、体を20〜30度ほど前傾状態にする
  2. 片脚の膝を斜め前方に出す
  3. 地面についている方の脚で地面をしっかり押して膝を斜め前方に出し、逆側の脚を地面につく

最初は片脚ずつ1回1回動きを確認しながら行います。重要なのは「地面をしっかり押す」ということ。

また、膝は胸の方に引きつけるような「もも上げ」ではなく、進む方向に出すことが重要です。

動きになれてきたら素早く左右を切り替えして2歩ずつ行いましょう。ストライドを伸ばすために「地面をしっかり押す」ことを忘れず、加えてできるだけ速く左右の脚を切り返すことで「ピッチ」のトレーニングにもなります

慣れてきたら3歩、4歩、5歩、と増やしていきましょう。

2)スキップ

誰もが知ってる動き「スキップ」は「地面をしっかり押してその反作用の力を受け取る」という感覚を得るのにとても良いトレーニングです。

僕がアスリートに運動指導を行うときは、スキップは必須の動きの1つです。

ポイントは「地面をしっかりと押す」ことに加えて、「骨盤の真下」で地面を押すイメージで前に進んでいくことです。骨盤よりも前 or 後ろに足をつくと地面を強く押せません。

前に進むために身体は前傾しているので、足を真下についているつもりでも実際は多少後ろについています。よって、足を真下についているイメージでしっかりと地面を押すことを意識してやってみましょう。

3)ミニハードルランニング

ストライドを一定に保ちながらピッチの練習を行うには「ミニハードルランニング」がオススメです。

  1. ミニハードルを一定の間隔で置きます。
  2. 5〜10mくらい手前からスタートして、ミニハードルに当たらないように走ります。

最初は短めの間隔(120〜150cm)から行い、徐々に間隔を広げ、最終的には「自分の脚の2.3〜2.5倍の長さ」まで広げます。

ポイントは「ミニハードルの間隔を広げてもピッチの速さは維持すること」です。

ストライドを広げてもピッチが遅くなってしまってはスピードは上がりません。「地面を下に強く押す」ことは忘れずに行いましょう。

アジリティ=身体を思い通りに動かす

agility-training

日本SAQ協会はアジリティを「運動時に身体をコントロールする能力」と定義しています。私はアジリティのことを「自分が思った通りに身体を動かす能力」という感じで理解しています。

もう少し噛み砕いてみると、ダッシュをしているとき「ストップしたい」と思ったときに素早く止まれる能力。ダッシュをしながら「右に行きたい」と思ったときに素早く方向を変えて右に行くことができる能力。これがアジリティです。

アジリティは様々な能力をかけ合わせた総合力

NASM-PESの教科書によると、アジリティ能力は以下の能力をかけ合わせた総合的な力である、と示しています。

  • 方向転換
  • 急な加速・急な減速・急なストップ
  • フットワーク
  • ボディコントロール

よって、これらの能力を鍛えるトレーニングをそれぞれ行いつつ、複数の能力を同時に使うようなトレーニングも行うことで、自分のスポーツで使えるアジリティ能力を高めることができます。

プラン・アジリティとリアクティブ・アジリティ

アジリティトレーニングには大きく分けて2種類あります。

  • プラン・アジリティ(Planned Agility):選手はどのように動けばいいかを知っている
  • リアクティブ・アジリティ(Reactive Agility):選手はどう動けば良いかわかっておらず、指示や音などに反応して動く

アジリティトレーニングをやったことがない人は、まずはプラン・アジリティから行いましょう。

どのように動くか分かっているので、その動きを頭の中でイメージし、その通りに自分の身体を動かします。まずは動きをしっかり身体で覚えて、徐々にその動きを素早く行っていきます。

プラン・アジリティに慣れてきたら、リアクティブ・アジリティも始めていきます。コーチの指示や誰かの動き、もしくは音やモノ(ボールなど)に反応して動いていきます。

実際のスポーツでは、あらかじめ動きが決まっていない状況がとても多いです。相手を見ながら動いたり、ボールに反応して動かなければなりませんよね?より実践的な能力を高めるのがリアクティブ・アジリティです。

アジリティを鍛えるトレーニング3選

私が選手によくやってもらうオススメのアジリティトレーニングを3つ紹介します。

1)ラダートレーニング

アジリティトレーニングとして有名な「ラダートレーニング」は、フットワークを鍛えるのに最適です。

また、事前にどう動いたらいいかがわかった状態で行うプラン・アジリティのため、アジリティトレーニング初心者が最初に行うものとしても効果的です。

YouTubeで「ラダートレーニング」「ladder training」と検索すると、様々なパターンのフットワークが出てきます。「正確なフットワーク」と「できるだけ素早く足を動かす」ことを意識して行いましょう。

2)Tドリル

こちらもアジリティトレーニングとして有名なドリルの1つです。動きはシンプルですが、スタートから加速、ストップ動作、方向転換、フットワークと、様々な能力を鍛えることができる素晴らしいドリルです。

  1. コーンをアルファベット「T」になるように置く
  2. まっすぐダッシュして、正面のコーンで減速
  3. 右 or 左に方向転換をして、シャッフルの動きで横方向に移動し、コーンに着いたら逆方向に切り返す
  4. 逆側のコーンまでシャッフルで移動し、着いたらまた切り返し
  5. 真ん中のコーンについたら方向転換をして、スタートしたコーンまで後ろ向きで走る

自分のタイミングでスタートし、あらかじめ動く方向を決めておけば「プラン・アジリティ」となります。

コーチの拍手などでスタートしたり、最初のダッシュから右 or 左に方向転換する方向をコーチの直前の指示で決めるようにすると「リアクティブ・アジリティ」となります。

最初から最後まで全力で行うことが大切です。できるだけ速く加速し、ギリギリまでダッシュして、急激なストップからの素早い切り返し、シャッフルもできるだけ速く足を動かして素早く移動、など1つ1つの動きを全力で行うことで、実際のスポーツ・試合でも活かせるアジリティ能力が身につきます。

3)4-Cone Reactive Agility

私がよく使うアジリティ・トレーニングの1つが、4つのコーンを使ったリアクティブ・アジリティドリルです。

フットワーク、ボディコントロール、急なストップなど、アジリティに必要な様々な能力を鍛えることができるオススメのトレーニングです。

  1. 4つのコーンを選手の周りに置く
  2. 選手は真ん中に立ち、コーチは選手に向かい合って立つ
  3. コーチはどこのコーンへ行くかを支持する
  4. 選手はその指示を聞いて、できるだけ素早くそのコーンへ行き、素早く戻ってくる

どのコーンに行くかはコーチが指示するまでわからないので「リアクティブ・アジリティ」のトレーニングとなります。

上動画では、選手は中心でただコーチを見ているだけですが、私は選手にハーキーステップ(下動画参照)をさせます。

中心ではハーキーステップをして、コーチの指示を聞いたら素早くコーンをタッチして中心に戻ってきて、再びハーキーステップ。これを30秒とか、コーンタッチ10回を1セットくらいで行います。

できるだけハーキーステップを速く行うことで「身体を素早く動かす」という神経系のトレーニングになり、これもアジリティ能力を高めることにつながります。

クイックネス=素早い反応・リアクション

quickness-track

日本SAQ協会の定義では、クイックネスとは「刺激に反応し、速く動き出す能力」です。

わかりやすく言うと、陸上競技の100mで「ピストルの音に素早く反応して走り出す」といったような能力のことですね。「リアクションタイム」とも言います。

スポーツにおいて、反応するべき「刺激」は大きく2つに分けられます。

  • :ピストル(陸上・ビーチフラッグスなど)・声(バスケ・サッカーなど)
  • 人・モノ:敵(バスケやサッカーでのディフェンス・野球の盗塁など)・ボール(バレーボールでのレシーブ・テニスやバドミントンなど)

陸上の短距離種目では、ピストルの音に反応して素早くスタートを切ることは勝敗の大きな鍵となります。団体スポーツでは、味方の声に反応して素早く動き出す、ということも大切になるでしょう。

人やモノに素早くリアクションする能力もクイックネスです。

野球の盗塁においては、スタートの早さで成功か失敗かが決まると言っても過言ではありません。ピッチャーが本塁に投げ始めた「動作」に素早く反応して動き出す必要があります。

バレーボールのスパイクや、バドミントンのレシーブも、ものすごいスピードで向かってくるボールやシャトルに反応する必要がありますね。

クイックネスを鍛えるトレーニング3選

クイックネスを鍛えるためには、「音・人・モノの刺激」に反応して「できるだけ素早く身体を動かす」というトレーニングをする必要があります。自分のスポーツで行う動作で行えるとより良いですね。

ここでは特定のスポーツに限定はせず、クイックネスを鍛えるトレーニング方法として私が好きなものを3つ紹介します。

1)ビーチフラッグス・スプリント

「音」に反応して身体を動かすトレーニングとして有名なのが、この「ビーチフラッグス」の形式を使ったトレーニングです。

  1. 床にうつ伏せになる
  2. 「スタート」という声や、「拍手」「ピストル」などの音を出し、それに素早く反応してダッシュ

クイックネスを鍛えるために一番重要なのは、とにかく「刺激(ここでは音)」に意識を集中させ、できるだけ速く反応して身体を動かす、というところ。反応した後のダッシュは「加速」と「スピード」の能力になります。

2)ミラードリル

こちらも有名なクイックネスを鍛えるトレーニングですね。「人」に反応して身体を動かすトレーニングになります。

  1. 2人が向かい合い、オフェンス役とディフェンス役を決める
  2. オフェンス役は自由に動き、ディフェンス役はとにかくついていく

バスケ、サッカー、アメフトなど、対人スポーツを行う人にはかなりオススメのトレーニングです。

この動画では左右にただ動いているだけですが、例えばジャンプしたり、しゃがんだりといった違う動作を入れても良いですね。

ディフェンス役は「ミラー(鏡)」となって、とにかくオフェンスと同じ動きを行います。見たものに反応して身体をできるだけ素早く動かしましょう。

3)ミニバンドキャッチ

最後は遊びながらクイックネスを鍛えるようなものを紹介します。楽しいですよ。笑

この投稿をInstagramで見る

• @SKLZ Mini Band Drop Reactive Drills • 💡 These variations of the Mini Band Drop Reactive Drill can be used as: ✔️Attention Grabber: use at the beginning of the session to get your group engaged and focus. Works wonders with rowdy youth athletes ✔️ Neuromuscular Activation / Pre-Plyos: use at the end of the Movement Preparation and encourage drop squats to lower the body to catch the band. Add rapid response or 2″ runs to add complexity ✔️ End of Training Session: use it as a final challenge or competition. Your athletes will walk away with a smile on their faces thinking that the training session was fun • @team_exos @sklz @adidaschina #beready #training #performancetraining #sportstraining #sportsrehab #returntosport #physicaltherapy #strengthandconditioning #coachesmakeadifference #maketrainingfunagain

Jair Lee(@coach_jair)がシェアした投稿 –

  • レベル1:向かい合って立ち、トレーナー役はミニバンドを1つ目の前に出す。選手役はバンザイ。ミニバンドが手から離れた瞬間に反応し、地面に落ちる前にキャッチ。
  • レベル2:トレーナー役はミニバンドを2つ持ち、どちらか1つを手から離す。選手は落とされたミニバンドをキャッチ。
  • レベル3:トレーナー役は違う色のミニバンドを2つ持ち、2つとも手から離しながら色を言う。選手は言われた色の方だけキャッチ。

レベル3はなかなか難しいですよ。ぜひ試してみて下さい。

まとめ

SAQトレーニング®について、スピード、アジリティ、クイックネスに分けてお伝えしました。

最終的には、自分がやっているスポーツで活かせる能力にならないと意味がないので、1つ1つのトレーニングを行いつつも、常に自分のスポーツでの動きにリンクさせていくことが大切です。

興味あるトレーニングがあれば、ぜひ試してみて下さい。

Comments are closed.