トレーナーとして部活動やスポーツチーム等で活動している方は、ほぼ全員「足首(足関節)の捻挫」を見たことがあるのではないでしょうか?特に運動・スポーツ現場では、一番よく起こる怪我として代表的なのがこの「足関節捻挫」です。
トレーナーとしてチームのサポートをしている場合、よく起こってしまう足関節の捻挫の程度を素早く現場で確認し、すぐに病院に連れて行った方が良いのか?テーピングやサポーターでしばらく様子を見れば大丈夫そうか?それとも違う怪我なのか?を判断する必要がありますよね?
今回は、エビデンス/科学的根拠に基づいた、信頼性の高い足関節の捻挫をチェックするためのスペシャルテストを紹介します。
>>今回の参考文献はこちらです。
- National Athletic Trainers’ Association Position Statement: Conservative Management and Prevention of Ankle Sprains in Athletes
アスリートによる足関節の捻挫のケアや予防についてまとめられた、NATAによるポジションステイトメントです。 - Mechanics of the anterior drawer and talar tilt tests: A cadaveric study of lateral ligament injuries of the ankle
足関節の代表的な2つのスペシャルテスト(前方引き出しテストと内反ストレステスト)のメカニズムを研究したものです。 - Diagnostic accuracy of clinical tests for ankle syndesmosis injury
High Ankle Sprainと呼ばれる遠位脛腓靭帯を損傷してしまう捻挫を判断するための、数々スペシャルテストの正確さを研究したものです。
足関節のスペシャルテスト|評価の流れ
それでは、足関節をひねった選手が現れたときに行うべき足関節のスペシャルテストを紹介していきます。
まずは「オタワアンクルルール」を使う
足首をひねった!と選手がトレーナーのもとに現れた時、いきなりスペシャルテストはしないと思います。まずは「何をしててひねったの?」とか「具体的にどこが痛いの?」など、話を聞きますよね?(=これを「問診」と言います)。
ある程度会話をしてどんな状況かを理解したら、その部位を実際に触ってみて、どこに圧痛があるのか?どれくらいの痛みなのか?をチェックします(=これを「触診」と言います)。
この「触診」をする際に、知っておきたいのがこの「オタワアンクルルール」です。オタワアンクルルールによって「骨折の疑いがあるかどうか」をチェックすることができます。
指定されたポイントを触診することで、骨折はなさそうなのか?骨折が疑われるからすぐに整形外科に行ってレントゲンを撮るべきかどうか?がわかります。
もしオタワアンクルルールを知らないという方は「Ottawa Ankle Rule|オタワアンクルルールで骨折の有無を知る」の記事をぜひご覧ください。
1)足関節内反捻挫のスペシャルテスト
まずは、足関節をひねった80%以上の人がなると言われている「内反捻挫」になったときに損傷する可能性の高い、足首の外側の靭帯の損傷の程度をチェックするスペシャルテストを2つ紹介します。
前方引き出しテスト(Anterior Drawer Test)
内反捻挫をしたときに一番損傷する可能性が高いと言われる「前距腓靭帯(ぜんきょひじんたい)」の損傷(もしくは断裂)をチェックするスペシャルテストです。
- 患者は動画のように、足だけベッドの外に出るように座って(もしくは仰向けになって)リラックスします
- トレーナーは、片手で足関節の少し上をつかんで固定します(動画の左手)
- もう片方の手の手のひらでかかとを包むように掴み、足首を20°くらい底屈させた状態で、つま先側に引き出す
- 引き出された程度を、怪我をしていない方の足関節と比較し、怪我をした方の足関節の方がより引き出されたら陽性です
内反ストレステスト(Inversion Talar Tilt Test)
踵腓靭帯(しょうひじんたい)の損傷(もしくは断裂)をチェックするスペシャルテストです。
- 患者は動画のように、足だけベッドの外に出るように座って(もしくは仰向けになって)リラックスします
- トレーナーは、片手で足関節の少し上をつかんで固定します(動画の左手)
- もう片方の手の手のひらでかかとを包むように掴み、内反方向に動かす(つま先が親指側へ動く)
- 外くるぶしの下側に痛みが出ると陽性です
- さらに、怪我をしていない方の足関節でも同じようにテストを行い、怪我をしている足関節の方がより内反方向に動いたら(=ゆるみがある)それも陽性です
2)足関節遠位脛腓靭帯損傷(High Ankle Sprain)のスペシャルテスト
足関節をひねった時に一番起こりにくい(1〜3%くらい)と言われているのが、この遠位脛腓靭帯捻挫(High Ankle Sprain)ですが、痛みがひどく、歩くこともできなかったり、なかなか治らなかったりと、とても厄介な足首の捻挫です。
これは「遠位脛腓靭帯(えんいけいひじんたい)」という靭帯を損傷する足関節捻挫をさします。この遠位脛腓靭帯がダメージを受けているかどうかをチェックする代表的なスペシャルテストは以下の3つです。
背屈-外旋テスト(Kleiger’s Test)
- 患者は、足が地面に着かないところで座って足をリラックスさせる
- トレーナーはまず足首の少し上をつかんで、動かないように固定します(動画の左手)。ただ、ちょうどこの固定する位置が遠位脛腓靭帯がある場所なので、圧迫しすぎないように注意します(ここを強く掴みすぎると、その圧迫で痛みが出て、このテストによって痛みが出たかどうかがわからなくなります=false positiveの可能性)
- 逆の手で足をつかんで、しっかりと背屈させます(つま先をすね方向に持ってくる)
- 背屈させた足を小指側に持っていきます(=外旋させる)
- 足関節の前面(両くるぶしの間あたり)に痛みが出たら陽性です
しっかり足関節を背屈させることがポイントです。しっかり背屈させた状態を保ちながら外旋させていきましょう。
圧迫テスト(Squeeze Test)
- 患者は、足が地面に着かないところで座って足をリラックスさせます
- トレーナーは両手でふくらはぎの真ん中を、腓骨と脛骨を近づけるように圧迫します(=Squeezeする)
- 足首に痛みが出たら陽性です
このSqueeze Testは、脛骨や腓骨の骨折があるかどうかをチェックする際にも使われるスペシャルテストですが、High Ankle SprainをチェックするためにこのSqueeze testを使う時は「ふくらはぎの真ん中」をSqueezeするようにしてください。
Fibular Translation Test
日本語でなんというのかがわかりませんでした。「Fibular=腓骨」「Translation=移動」という意味です。
- 患者はベッドの上で横向きになり、怪我をした足関節の内くるぶしがベッドにつくようにポジションをとります
- トレーナーはベッドと足関節の間から手を通して足関節の少し上をつかみ、脛骨を固定します(動画の右手)
- もう片方の手の手根を外くるぶしの後ろ側に当て、指は外くるぶしの前方をつかみ、外くるぶしを前後に動かします
- 足関節に痛みが出た、もしくは怪我をしていない足関節と比べて、外くるぶしが前後により動いたら陽性です
まとめ
今回はトレーナー向けの専門的な記事になりました。足関節の捻挫は、スポーツ現場で最も頻繁に起きる怪我です。
ただの捻挫でしょ?と選手たちは思ってしまうことが多いのですが、簡単に済ませることのできる怪我ではありません。骨折も起きますし、靭帯の完全断裂も起きます。こんな時はすぐに整形外科に連れて行って、固定が必要になります。
よく起こってしまう怪我こそ、トレーナーの処置や対応によって回復の時期が大きく変わってきます。適切な処置をして、1日でも早く競技に復帰してもらえるよう、現場でトレーナーをされている方には、今回の記事をぜひ参考にしていただけたらと思います。
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